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途中から雨が降って来ました。雨は時間が経つに連れ激しくなり、私は山道の泥で何度も滑って転びました。泥人形のようになって、雨宿りする場所を探していました。そして、あの裂け目を見つけたのです。
その裂け目は岩に縦に入っていました。丁度、大人の男が身体を横向きにすれば通れる。そのぐらいの裂け目でした。
私は10歳で余裕がありました。中に入ってみると奥が深そうでした。微かに明かりが漏れていました。その明かりに誘われるように私は奥へ進んで行きました。
突然、尖ったものを突きつけられました。
目の前に年寄りの男が弓を構えていました。弓で射ってくれたら、私は高天原に帰れると思いました。
その男は弓を下ろすと私の両肩をぎゅっと握りしめ、直ぐ離しました。
「そんな冷たい身体じゃあ死んじまう!服を脱いで、そこの毛皮に入ってろ!」
男は毛皮の布団を指差して言いました。私は言われた通りに服を脱ぐと毛皮に包まりました。私の頭も顔もドロドロです。
「汚れるよ。」と私が言ったら、「気にすんな。」と男の言葉が返ってきました。
私は、疲れていました。直ぐに泥だらけのまま毛皮に潜り込んで眠ってしまいました。
目が覚めると、年寄りの男は私に器に入った水と炒ったドングリをお皿に入れてくれました。
「食え。なんでも食うんだ。」
私がポリポリ殻を剥いたどんぐりを食べている間に男は私の顔を拭いてくれました。
「髪の毛は、どうしようもねぇな。明日、温い水が出るところに連れて行ってやる。オメェ、どっから来た?」
「村。逃げてきた。」
「抜けモノか。。。俺と同じ。じゃねぇな。俺は親が抜けもので、村には入れない。お前、名前は?」
「アマ。10歳だよ。」
「そうか。俺はカケル。35ぐらいのジジイだ。死んでもいいのに死なねぇ。」と言って笑ったカケルの笑顔は皺だらけで笑うと本当に優しそうに見えました。カケルは長い髪を後ろで縛っていました。それも、白髪だらけ。私は暗闇でも物が見えました。うっすら明るい洞穴の中で私はカケルと出会ったんです。
場所は………そうです。
陽が翔太に石を投げられたあの洞穴。水川神社は、私があの場所に建立するように命じました。
あの場所は、全ての始まりの場所だからです。
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