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14、裁断
高天原においては、罪を犯した柱に「裁断」と呼ばれる「裁判」でその後の処遇を決定する。
それは人間社会の裁判制度とは、かなり違う。事件の事実調査、被告となった柱をあらゆる方向から分析すること、被告から取る聴取も長い時間をかけて行う。それは100年を超える場合さえある。
カケルの場合は被告を人間だと思い込ませて、周りを柱で囲む『思しかまひ』まで行われた。時間切れを察知したカケルは、それでも逃亡を企てた。捕縛後、1年以上「青の離宮」で拘束されたのは、追加調査が行われていたからである。
「裁断」において、判決を言い渡す裁判長は「女王」である。法務部の役人は「検察官」の役割を果たす。被告側弁護人はいない。
自分の真実を証明するのは被告の最終陳述だけである。
日本の裁判制度の即決裁判をイメージしてほしい。それの弁護人なしバージョンである。上告は制度上無い。一発勝負である。
法廷は「玉座の間」。裁判も一つの儀式である。カケルの裁断は「公開裁断」であった。公開とは言っても、法廷で傍聴ができるのは、宮仕えが中心である。物理的に民草全員は無理なので、そこは抽選になる。
玉座の間は小学校の体育館ぐらいの広さ。其処に一席のみの裁判長席、裁判書記官2柱は「けつじゃう」の速記もできる筆記者が務める。
傍聴席から見て左側に検察官2柱。被告は中央の証言台に立つ。そして右側には、学識者2柱が着席した。イチキとアオイである。
傍聴席は、ぎゅうぎゅうの満席だった。傍聴柱たちは「青の離宮のカケル」の噂は聞いていても、その者を見たことがなかった。
やることは野蛮極まりないが、とても美しい見目をしているという噂で一目見たかったのだ。単なる野次馬の集団である。
ヒカルと桃花は傍聴席の家族側にいた。母が父を裁く。
2柱とも複雑な気持ちを抱えていた。桃花は、父が哀れで悲しくて悲しくて心が決壊しそうだった。
ヒカルは、母がやっと苦しみから解放されると信じていた。ただ、もう1人の父、アオイが人間の法廷の弁護側に座っているのに違和感を感じていた。
カケルが入廷すると傍聴席から大きなため息が幾つも聞こえた。
青い空色の髪、和顔で目元涼しく、穏やかな表情をした美しい男だったからだ。
一番最後に裁判長が入廷して着席する。被告の妻だと傍聴柱たちが思っている女王が入廷した。
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