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陽が腹の底から声を出した。
「被告柱、カケル。在所は「青の離宮」。これで間違い無いな?」
「はい。」カケルは答える。
「では次に、検察官、被告の罪状内容を述べよ。」
法務部長、カイトが立ち上がり書面を読み上げる。
「被告、青の離宮のカケルは、およそ500年前から431回の無断の下界降り、すなわち国外逃亡を行うという蛮行を繰り返しておりました。それだけに留まらず、生きている人間の男の身体を乗っ取り、人間の女人と関係を結ぶといった凡そ柱とは思えない野蛮且つ倫理観の欠片もない行動をしたのであります。
被害にあった女人は乗っ取られた男の妻だけでなく、被告の行いは、それ以外の女人とも同時に関係を結ぶといったものでした。
カケルは柱の器ではないと判断せざるを得ません。
この行動の結果、生まれた子供は延べ約50人。うち、20人ほどが死亡しております。乗っ取られた男の妻が産んだ子は概ね生きて成人を迎えられましたが、それ以外の子は生きられても過酷な人生を送らざるを得ませんでした。その中に放置、虐待が数多く見受けられます。
我ら、ある者(神)が、人間を不幸にするなど、まして生まれるはずのない命を生み出し、虐待や死に追い詰めることなど、あってはならぬこと。実際に手を加えなくとも「殺人」に近い行為だと思わざるを得ません。」
431回の逃亡について資料を提出します。法務部の部員が20箱の段ボールを裁判長に台車で届けた。
陽は、カイトに頷くとカケルの方を向いた。
「何か言い分があるのなら述べよ。」
「俺は、自由になりたかっただけだ。431回。そんなに逃げたしていたのか。子供ができるなんて考えてもみなかった。一回逃げ出しても10日も経たないうちに捕縛されたんだから。その繰り返しだ。俺は奥多摩にステーションまで造られて、最後は分家が、いつも俺を捕まえた。その後の女がどうなったかなんて考える余裕もなかった。逃げ出しては獄に繋がれ、戻る場所は「青の離宮」。
でも、こうやって纏めて言われると俺は子供をたくさん酷い目に遭わせたんだな………。ああ、やったことは認める。逃亡して、その結果、俺は子供をいっぱい殺したんだ。」
アオイが立ち上がった。
「それは違う!子供は男1人では作れない!カケルは殺してはいない!幼子を死に至らしめたのは相手の女の方だ。全員の死の経緯を調べてほしい!」
陽はアオイの方を見て怒鳴った。
「其方に発言権はないはずだが?!我の許可を得ず何をしておるのか!」
「弁護人もいない裁判など、やる意味がない!この裁判のあり方は野蛮だ!私は被告の精神鑑定書を提出する。被告が400回を超える逃亡を企てたのは、其処まで追い詰められたのは、3500年もの幽閉の果てに精神が健全な状態ではなかったからだと私は結論づける。」
「鑑定書なるものがあるのか。イチキ、今、我に提出しろ。後で評議する。」
イチキが鑑定書を裁判官席に届ける。
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