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2、カケル
「俺は、カケル。ずっと一人暮らし。いや、2年前まで1年女房がいた。若い女房でお産で死んじまった。腹の中の子と一緒にな。」
翌日、私はカケルに天然温泉が沸いているところに連れて行ってもらいました。カケルは顔は皺だらけなのに身体は若い気がしました。
「カケルは本当に35歳ぐらいなの?」と私が訊くと邪気のない笑顔で「幾つに見える?」と聞いてくるのです。
「俺は、時間を掴めるから、ほぼ間違いないぞ。」と自慢してくるのです。
あの時代の35歳は十分年寄りです。40ぐらいで死ぬのですから。村で見たものは、年寄りと子供の少なさでした。ムラオサが言った生後1年迎えるのは半分以下というのは本当でしょう。医療も衛生観念も何もない時代です。栄養も十分とは言えません。
カケルはとても優しい人でした。
「俺はな、親が抜けものだから、村の仲間に入れてもらえない。女だったらよかったのにってクソババアに言われた。昔1回行って、それから行ってないから、多分あのババアは死んだな。決定!」
「今のムラオサもババアだよ。でも、幾つかなぁ……カケルと同い年だったりね。」
2人で温い湯に浸かって私は髪も洗って、カケルは新しい布で簡易な服を作ってくれて着替えさせてくれました。
「一晩で作ったの?」と私が驚いているとカケルは、さも大した事ないと言っているような表情で「ああ。布は余分にある。後はサッと縫っただけ。縄で止めれば出来上がり。」と言いました。
カケルの頭の良さは、尋常ではありません。あの洞穴の中にはカケルが考えて作った機織り機もミシンもあったのです。
水路もひいていましたし、上下水の観念も持っていました。縄文の水洗トイレですよ。中で大きな火を焚くことはありませんでした。大きな火を焚くのは外です。一酸化炭素中毒も解っていたようです。
洞穴の中なのに、カケルは昭和程度の暮らしを自分で作り上げていました。
まだ、文字がない時代でした。でも、カケルは一年を春夏秋冬で掴んでいました。洞穴の壁に3本の横線と一本の斜め線で「1年」を認識していました。だから、35歳という年齢は、ほぼ近いと思います。
初めての温泉の日、カケルは私に提案をしてきました。
「俺は、いつ死ぬか分からない。俺が死ぬまで一緒に暮らさないか?」
私はしばらく考えました。でも、カケルとの生活は楽しそうで今度は高天原に帰りたくなくなっていました。
「うん。いいよ。10年は無理だけど3年ぐらいならいいや。オレは、この世界のことが知りたいんだ。」と答えていました。
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