3、声

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3、声

その日から、カケルは私を毎晩抱いた。 カケルは私を「他の男に盗まれるのは嫌だ。」と言って私を洞穴から出してくれなくなった。 一日中、穴の中に監禁されていた。高天原で「護り珠」が作られる前の話だ。逃げようと思えば逃げられたのかもしれない。でも、私は暗闇に閉じ込められて気を取り込む事ができなかった。非常用の首に下げていた水晶のペンダントはカケルに取り上げられ、隠されてしまっていた。この洞穴にきて3日もしない頃、カケルは「寝ている間に首が閉まっちまう。」と言って、私から水晶を取り上げた。 ある日、声が聞こえた。 「ここ、どこ?」 その声は耳から聞こえた声じゃなかった。頭の中に聞こえる声。在る者(神)だけが発する声だった。 私は声の主に頭の中で話しかけた。「あなたは誰?」 「分からない。暗い所にいる。声を出す器官が完成した。だから、訊いている。ここ、どこ?」 「あなたは高天原から来て、この家に隠れてるの?」 「意味が分かりません。ここ、どこ?」 私は、まさか……と思った。私は子供が欲しいなんて思っていない。私は自分の服を脱いでお腹を見た。小さな小さな私とは違う気がお腹に宿っていた。色は青。 私には親は居ない。兄弟はいるけれど交流もしていなかった。スーは遠に高天原から追い出していた。ツクともじっくり話したこともない。私は自分に子供ができるなど、考えてもみなかった。私は巫女だから。でも、それでも子ができた。 私は涙が出た。嬉しくて嬉しくて涙が出たのだ。やっと家族ができた。私の子。 私は子に話しかけた。「私はお前の母親だ。心配するな。暗いのは腹の中だからだ。外も暗いが我らの目は暗闇でも利く。ゆっくり時を待て。」 「母親って何?」私の子は何も知らない。 「お前を1番大事に思う者。母上と読んでくれ。そして、眠れ。大きくなれ。」 暫くカケルには黙っていようと思った。在る者のお産は軽い。1人で大丈夫だ。私も子も死なない。死ぬのはカケルだけだ。カケルは、どう見ても年寄りだ。そのうち死ぬ。死んだら帰ればいい。その時は、そう思った。
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