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「マジ。マジ。花満開。桜前線異常なしだぜ」  と悪友から告げられる。  いきなり、何の話なのだと思われそうだ。いや、単なる偵察報告。偵察報告なんて言うと、それこそ意味が分からないと言われそうだ。もっと砕くと俺と悪友の知人である漫才コンビがネタの披露を春の河川敷でやったという話の報告だ。  そこは河川敷だから桜の木が道沿いに植えられていて、それが満開だった、と。  そう言いたいのだろう。  というかだ。漫才のお披露目の話なんだからヤツらの漫才がどうだった、だとか、そういった報告を聞きたいのだが。とも思うが、まあ、悪友は、とんでもないほど斜め上をいく視点を持った人間だから、こういった報告になるのも仕方がない。  ある意味で慣れっこだ。  うむっ。 「で、桜の話はいい。それよりもヤツらの漫才はどうだったんだ。ウケてたのか」 「ウケてた。ウケてた。めっちゃウケてた。でも桜が満開で乱れ咲いてたからな」 「いやいや、ウケてたという話と桜が満開なのは別だろうが。意味、分からんぞ」 「そうか? めちゃめちゃ重要だと思うけど」  ううん?  こいつは何が言いたいんだ。漫才がバカウケしたという話と桜が満開のどこに共通点があるんだ。アレか? 桜が散ったら漫才がスベるなんて言いたいんじゃないんだろうな。そんなわけがない。桜が散ろうが、葉桜だろうが……、って?  ええっ?  ちょっと待て。待てよ?  今は四月も終わり。つまり桜は終わっている。北海道でもなければ葉桜になって満開なんて、ほど遠い。それでも満開だったと悪友はいう。それどころか、乱れ咲いていた、と。それは、どの世界線の話だ。少なくとも、この世界ではない。  俺は悪友が、からかっていると決めつけ真剣な面持ちで言う。 「一つ、聞きたいんだが」 「なんなん? 言ってみ」  相変わらず拍子抜けするような間が抜けた顔で悪友は応える。 「もう桜のシーズンは終わってるよな。それでも満開だったと言った。百歩譲って咲いていたとしても満開はあり得ないな。でも、お前は、満開だって言った」  なんなんだ? そんなわけがないだろうが。  敢えて満開と言ったを繰り返してから悪友を問い詰めてみる。 「うん?」  悪友は目を細めて頬を緩め両口角をあげる。 「お前、勘違いしてないか? なんか、色々」 「なにを」  俺は不満を露わに思いっきり口を尖らせる。  悪友は、なにかに気づいたかのよう右手のひらで両目を覆い、天を仰ぎ、言う。 「アハハ。そうか。ヤツらが漫才を披露したのは河川敷だったな。あそこの路傍には桜の木が、沢山、植えられていたっけ。なるほど。違う。違う。違うって」  だから。  なにが?  桜が満開で、乱れ咲いていた、に間違いようはないだろうが。  ああん? 「サクラはサクラでも仕込みのサクラ。ヤツらウケたいが為に絶対に笑ってノリノリになる客を仕込んでたの。知り合いを、沢山、呼んで笑ってもらってたの」  ほへっ?  ああっ!  あっ、……そのサクラ。 「それもサクラって言うだろう。しかも満開で乱れ咲いてたの」  むむ。なるほど。サクラがイッパイいてウケまくってたのね。  あのオッパイ野郎共が!  お終い。
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