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「だって、今回は打ち上げ花火は見れなかったでしょ? おまけに天候も悪かったし。今度は快晴の日に来たいわ!」
「まぁ、別にいいけど」
「約束よ!」
「はいはい」
──懐かしいな。あの時の景子にまた会いたいな。あのときは、本当に楽しかった。
ふと隣に座っている景子を見る。景子は小さく、『ごちそうさま』と言い、空の三色弁当に蓋をしている。
「直樹、デザートのスフレプリン、出して出して!」
「あ、プリンね。はいはい」
そういえば、コンビニでスフレプリンを二つ買ったんだったな。白いビニール袋から新商品としてコマーシャルで宣伝されていたスフレプリンと、店員から貰ったプラスティックのスプーンを取り出し景子に渡す。
「わー! ありがとう! このプリン、めっちゃ楽しみにしてたんだよね! 美味しそう!」
プリンを渡され、無邪気な子供のような顔で笑う景子。
そうだ、俺は何を言ってるんだ。
景子は景子じゃないか。今も昔と変わらず明るくて思いやりのあるあの優しい景子じゃないか。被害妄想さえ何とかすれば、また昔のように楽しい時間をおくることができるはずだ。
隣に座るスフレプリンを美味しそうに食べている景子に言う。
「あのさ、景子」
「なーに?」
「同棲したらさ、その、一緒に心療内科に行ってみない?」
「え? 心療内科?」
「そう。これから一緒に住む新しいマンションは今、景子が住んでるアパートに比べると環境は絶対良いはずなんだ。環境が整えば精神的にも整うはず。そのタイミングで心療内科に行って治療すれば、被害妄想も今に比べて良くなると思うんだよ」
スフレプリンを食べていた景子のスプーンが止まる。目の前の古びた木製でできているベンチを見つめながら、景子はゆっくり口を開く。
「私、そんなに変?」
本人の口からあらためて言われると、何だか申し訳ない気分になる。
「景子自身が悪いわけじゃないよ。景子が被害妄想するようになったのは全部環境のせいだよ。環境を変えて心療内科にいけば今よりマシにはなるはずだよ。だから、一緒に行こう!」
「でも、私、心療内科ちょっと怖いの。変な薬出されて、それを飲んだことで薬物中毒者みたいに、薬に依存する生活を送らないといけなくなるんじゃないかと思って」
「だったら薬物療法以外の方法でやろう。『認知行動療法』とか『運動療法』や『呼吸療法』なんかもあるわけだし」
「本当に良くなるのかな?」
「色々試してみるんだよ! 他にも『瞑想』とか『ハタヨガ』、『アーシング』なんかも自律神経には良いらしいから、チャレンジしてやってみたらいいんだよ! 俺も一緒に手伝うからさ!」
「直樹・・・・・」
「俺はまた、あの高校生の頃の景子に戻ってほしいんだよ。被害妄想のなかった、あの一緒に居て楽しかった頃の景子に!」
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