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11月。
万里は予定日より3日早く青以の子を出産した。
その時間、風間、紫織、尋海、明日香は仕事で家を留守にしていた。
たまたま仕事が休みだった駿が産気付いた万里を市成に借りた車で産院に連れて行った。
産院までの道中、陣痛に苦しむ万里に車を運転しながら駿はずっと声をかけ続けた。
「大丈夫だからな。ゆっくり息して。俺も音無先生もついてるから」
産院に到着してからも駿はずっと万里に寄り添い、手を握り続けた。
駿から連絡を受け、会社を早退して飛んできた明日香も陣痛で痛む万里の腰をさすって励まし続けた。
仕事を終えた風間も駆けつけ、皆が見守る中、万里は定期的に襲ってくる陣痛に耐え続けた。
「万里ちゃん頑張って、もう少しで赤ちゃんに会えるからね」
日付けが変わり、澄み切った冬の空に明けの明星がひときわ眩しく輝く頃、万里は青以の忘れ形見である我が子と初対面を果たした。
夜の色の髪と瞳をした元気な男の子だった。
ひと目見てわかるほどその子は青以にそっくりだった。
万里は産湯から上がったばかりの我が子を腕に抱き、その瞳を見た瞬間涙が止まらなくなった。
ああ、やっとまた会えたね。
万里はなんの穢れも知らない真っさらな我が子の中に青以の面影を感じ、嬉し涙を流した。
この子さえいれば何も怖くない。
全身全霊で守っていくだけだ。
「生まれてきてくれてありがとう」
万里は温かな我が子の手に触れ、額に唇を寄せた。
『小さな青以』は万里の人差し指を思いのほか強い力でしっかりと握り返した。
まだ見えていないはずの黒い瞳は万里の方を向いている。
万里は限りなく優しく微笑みかけながら力強く頷いた。
新生児室のガラス窓に張り付いて風間と駿と明日香は生まれたばかりの赤ちゃんを見て目を見張る。
あまりにも青以にそっくりだったからだ。
「どこからどう見ても青以さんだ」
「すげー!生まれたばっかなのにちゃんと音無先生の雰囲気持ってる!」
「めちゃくちゃ整った顔した赤ちゃんね!」
3人は廊下から新生児室のガラスにかじりつき、いつまでも飽きずに小さなベッドに寝かされているその子を見つめ続け、お決まりのセリフを連発した。
「なんて可愛いんだろう。こんなにたくさんいる中で、うちの子が1番綺麗な顔をしてる」と。
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