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紫織は尋海から受け取った赤ちゃんを大事そうに腕に抱き、透き通った夜の色の瞳を覗きこみ、小さな声で囁いた。
「……おかえり、青以」
赤ちゃんは紫織の言葉にじっと聞き入るようにおとなしくしている。
まだ何も知らない無垢な瞳を見つめながら紫織は優しく目を細め、深く頷いた。
「ほら、竹脇も」
紫織の腕の中の赤ちゃんを覗き込みながら目を潤ませていた竹脇は顔の前で両手を振った。
「とんでもない!私は……」
「大丈夫だから抱いてみろって」
紫織から抱き方を教わり、竹脇は恐々といった感じで赤ちゃんを抱いたが、至近距離で見る『小さな香坂青以』に一瞬でメロメロになってしまう。
「……ああ、香坂先生……ここにいらしたのですね」
鼻の奥がツンとして胸がいっぱいになりながら竹脇は紫織と目を合わせ、笑みを交わした。
「なんてお可愛らしい……」
青以が逝ってからから9ヶ月。
今日、赤ちゃんを見た誰もがその存在に救われ、幸せで心を満たされた。
第1陣が帰ってからは第2陣として矢吹と市成ファミリー、海斗と奏美が訪れた。
矢吹は久しぶりに親友に再会したような喜びを感じたのも束の間、盛大に泣かれてしまい、慌てて万里の腕に赤ちゃんを返した。
「泣くなよ青以。おまえに泣かれたらどうしていいか分かんないだろ」
そう言いながら矢吹は嬉しそうに笑った。
市成と茉由、陽花里と陽樹は家族4人で交互に赤ちゃんを抱き、賑やかにお祝いをした。
「万里ちゃんご出産おめでとう。ね?私が言ったとおりだったでしょう?万里ちゃんはきっと素敵なお母さんになるって」
茉由の言葉に万里は笑顔で頷いた。
中学1年生になった陽花里は初恋の人だった青以にそっくりの赤ちゃんを腕に抱き、感無量の様子だった。
小学5年生の陽樹は憧れの万里が産んだ自分より年下の赤ちゃんにすっかりメロメロになり、連れて帰りたいを連発した。
「お父さん、お母さん、僕もこんな弟が欲しい!」
息子の無邪気なお願いに、市成と茉由は顔を見合わせて苦笑した。
海斗と奏美もそれぞれが赤ちゃんを腕に抱き、青以を想って涙した。
「万里おめでとう。赤ちゃん、音無先生にそっくりだね。すごくすごく可愛いね」
奏美は万里と抱き合って涙した。
「ありがとう奏美」
海斗と駿は抱き合って喜びを分かち合うふたりを黙って見守った。
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