77人が本棚に入れています
本棚に追加
「万里があのお店が大好きな理由がよくわかりました。女将さんや大将さんたちが可愛がってくださって、生け簀で魚を引き揚げたり、大好きな人たちとお座敷で賑やかに食事したり、あんな素敵なお店が行きつけだなんて、幸せですね」
「……いつにも増して騒がしくて、疲れませんでしたか?」
「いいえ、全然。みなさん良い方ばかりで楽しくて、私はあの場にご一緒させてもらえて幸せでしたよ。何より万里が本当に嬉しそうでしたから」
風間の心からの笑顔に青以は救われる。
医師の仕事が忙しく、部屋に帰ってもひとりきりで食事をしている風間を心配していたからだ。
四国の親が経営する病院から単身上京し、慣れない都会で心身ともに疲弊しているのではないか。
青以は風間を思い、土日が休みの日は万里と過ごせるよう気遣っていた。
「まさか万里の入学式に自分が出席できるなんて……夢にも思いませんでした。青以さん、いつも本当にありがとうございます」
風間に深々と頭を下げられて青以は慌てた。
「そんな……頭を上げてください」
そんなふたりの様子を少し離れたところで見ていた万里は、ピアノの横まで来ると盛大なため息とともに言った。
「……ま〜たふたりで仲良くペコペコしてる」
「万里……」
風間は万里を見て苦笑する。
「また私にやきもち焼かせるつもりだ」
「だからなんでやきもち……」
青以は解せない顔で呟いた。
そんな3人を見て、静かにピアノを鳴らしていた要が笑う。
「万里姫はお父さんと叔父さんが仲良すぎて時々置いていかれるような気持ちになるんだね」
「……そんな」
父親と叔父が弱る顔を見て万里は苦笑した。
「そんなの贅沢な悩みだよね」
「じゃあ、万里ちゃん、そろそろアレ、披露しようか」
要がそう言うと万里はカウンターで明日香と市成、茉由と紗弓の5人で話していた駿を呼びに行った。
要がピアノの椅子を2個並べて万里と駿を座らせ、横に立って言う。
「それでは皆さま、こちらにご注目ください」
一同がピアノに注目すると要が続けた。
「この日のために半年前から猛特訓しました。音無万里、本宮駿、2名による連弾、きらきら星です」
最初のコメントを投稿しよう!