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アルバーノ・シュッティ。彼はシュッティ伯爵家の若き当主であり、これまた極上の容姿を持つ男性である。さらりとした金色の長い髪を後ろで一つに束ね、その赤色の目は人のよさそうなたれ目。体型は細身で、男性ながらに儚げな印象を他者に与える。
「愛されていて、夫人は幸せ者ですな」
「……えぇ」
声をかけられて、フランチェスカは控えめに笑った。
フランチェスカは社交の場では滅多に自ら口を開くことはない。端的な返事をするだけだ。
周囲の人間は、その理由を下世話にも詮索する。一番有力なのが、アルバーノは嫉妬深く、フランチェスカがほかの人間と話すのを嫌うという説だった。
その説はフランチェスカの耳にもすでに入っている。が、肯定もしないし否定もしない。
あえて言うのならば、遠からず近からずといったところだろうか。
「では、僕たちはこれで。……フランチェスカ、行こうか」
差し出された手に、フランチェスカはそっと手を重ねる。手をぎゅっと握られて、指を自然に絡められた。
周囲の令嬢たちが羨ましそうにフランチェスカを見つめるのがわかる。……が、フランチェスカからすればこんなことちっとも嬉しいことではない。むしろ、迷惑でしかない。……口に出すことは、許されないが。
「今日は、とてもいい日だね。……みんな、フランチェスカに注目しているよ」
ニコニコと笑いながらアルバーノがそう言う。……どうやら、今日の彼はとても機嫌がいいらしい。
自然とフランチェスカは胸をなでおろした。しかし、それは顔にも態度にも出さない。口にも出さず、自身の胸の中にとどめておく。
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