第1話

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 そんな中、ふと進行方向に人だかりが出来ているのが見えた。人だかりは女性がほとんどではあるものの、中心にいるのは長身の男性だ。 (……ライモンド、さま)  頭一つ高いため、彼の顔がはっきりと見えた。男性は興味なさそうに群がる女性たちをあしらっている。……いつも通りだ。 (ライモンド様はいつもそう。……女性を、適当にあしらう)  彼は昔からずっとこうだった。フランチェスカと幼馴染という関係性だった頃から、なにも変わっていない。あえて言うのならば、背丈がとても高くなり、体格ががっしりとしたこと。声が低くなったことくらいだろうか。  ぼうっとライモンドを見ていると、手をぎゅっと握られた。驚いてそちらに視線を向ければ、アルバーノがフランチェスカのことを見つめていた。……ぎこちなく、笑うことしか出来ない。 「フランチェスカ?」 「……なんでも、ありません」  彼の機嫌を窺うように返事をすれば、アルバーノは「そう」とだけ言ってまた足を前に進めた。  だから、フランチェスカは黙って彼に続く。……彼の機嫌を損ねることは、自分にとっても死活問題なのだ。 (そもそも、ライモンド様がどうなろうが私には知ったことじゃないわ。……もう、縁なんてないのだから)  アルバーノにエスコートされつつ、ライモンドの側を通り抜ける。  ……ライモンドは、どうせ自分のことなんて気にもしていない。幼少期にからかい、ほんの少し意地悪をした相手なんて――記憶に残ってなどいないだろう。 (……あの頃は、まだマシだったのよね。……こんなことに、なるくらいならば)  いつだって夫の機嫌を窺って、夫の理想とする女性を演じる。それが、今のフランチェスカのすべてなのだ。
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