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そんな中、ふと進行方向に人だかりが出来ているのが見えた。人だかりは女性がほとんどではあるものの、中心にいるのは長身の男性だ。
(……ライモンド、さま)
頭一つ高いため、彼の顔がはっきりと見えた。男性は興味なさそうに群がる女性たちをあしらっている。……いつも通りだ。
(ライモンド様はいつもそう。……女性を、適当にあしらう)
彼は昔からずっとこうだった。フランチェスカと幼馴染という関係性だった頃から、なにも変わっていない。あえて言うのならば、背丈がとても高くなり、体格ががっしりとしたこと。声が低くなったことくらいだろうか。
ぼうっとライモンドを見ていると、手をぎゅっと握られた。驚いてそちらに視線を向ければ、アルバーノがフランチェスカのことを見つめていた。……ぎこちなく、笑うことしか出来ない。
「フランチェスカ?」
「……なんでも、ありません」
彼の機嫌を窺うように返事をすれば、アルバーノは「そう」とだけ言ってまた足を前に進めた。
だから、フランチェスカは黙って彼に続く。……彼の機嫌を損ねることは、自分にとっても死活問題なのだ。
(そもそも、ライモンド様がどうなろうが私には知ったことじゃないわ。……もう、縁なんてないのだから)
アルバーノにエスコートされつつ、ライモンドの側を通り抜ける。
……ライモンドは、どうせ自分のことなんて気にもしていない。幼少期にからかい、ほんの少し意地悪をした相手なんて――記憶に残ってなどいないだろう。
(……あの頃は、まだマシだったのよね。……こんなことに、なるくらいならば)
いつだって夫の機嫌を窺って、夫の理想とする女性を演じる。それが、今のフランチェスカのすべてなのだ。
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