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カトウ・キサラギシステムズにギリギリで出社をすると、木下さんが心配そうな顔で私に近寄ってきた。 「昨日はコートも忘れて早退するし、その連絡にも返事がないし、夕方に若い男の子が来て加藤社長と社長室で長々と話した後に加藤さんのコートを持って行ったし、何かあったのかと思って心配してたんだから。 ・・・・・て、凄いケガしてる!! 大丈夫なの!?」 木下さんがビックリした顔で私の膝を見下ろしている。 それには笑いながらダッフルコートを脱ぎ、社員用のコート掛けに今日もコートを掛けた。 私が寝た後に銀君が持ってきてくれた“Hatori”のダッフルコートを。 そして、今日も思う。 “最上さんの“Hatori”のピーコートが可愛すぎる。”と。 新作の色とデザインではないようだけど、若い最上さんが“Hatori”のピーコートを着ていて、このピーコートがめちゃくちゃ可愛い。 「ちょっと、無視しないでよ。」 「あ、ごめん。 ケガはめちゃくちゃ痛いよ。 朝また転んだからストッキングが破れちゃった。 お昼にコンビニで買ってくる。」 「大丈夫なの・・・・? その、色々と、そっちの仕事とか。」 「うん、青さんからはもう行かなくて良いって言われたけど、少し引っ掛かることがあって。」 社員用のコート掛けの所にある2着の“Hatori”のコートを眺めながら言った。 「どうして私は此処に居るのかなって。」 「清掃に来たんでしょ?」 「うん、お兄ちゃんの“友達”である銀君が持ってきた案件でね。 お兄ちゃんが私のことを此処に送り込んだのは、“野々ちゃん”のことで私に青さんとの子どもを妊娠させるくらいの弱みを握らせる為だけじゃないと思う。 お兄ちゃんだって青さんのことはよく分かってるし、青さんがちゃんと避妊する男だって知ってるもん。」 「・・・・・よく分からないけど、アナタそんな仕事までしてるね。」 「うん、私はその仕事もしてる。 私は加藤望・・・・。 小関の“家”の秘書の“家”に生まれた・・・。」 そう言ってから、“Hatori”の2着のコートから目を離し、加治さんのことを目で探した。 そんなに広くはないオフィス内ですぐに加治さんは見付かり、加治さんの隣には最上さんが立っていた。 加治さんのパソコンを指差しながら2人で何かの話をしている。 そして、加治さんがパッと立ち上がり・・・ 最上さんの隣に並び何かの資料を見ながらまた2人で話し始めた。 1つの資料を2人で見詰め、真剣な顔で何かを話している。 背格好も顔も似ていないはずなのに、2人は同じような表情をしていて。 どこか似たような雰囲気がこの2人にはあって。 この2人の存在がこの会社の中ではとても大きな影響を与えているのは簡単すぎるくらい簡単に分かる。 「当初の案件は、私のことを此処に送り込んで本物の鶴さんの孫娘と会わせる為の偽の案件・・・? それとも、本当にあの2人のことを自主退職させる必要があるの・・・?」 小さく呟いた時・・・ 凄く凄く強い視線を感じた。 それにはその視線の元を探すと、いた。 加藤社長が、いた。 私が加藤社長の視線に気付いた時には加藤社長は私のことを見ていなかったけれど、あれは加藤社長の視線だったと思う。 「私に何をさせたいの、お兄ちゃん・・・。」 ·
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