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私が見せている第2ボタンを見た青さんが大きく顔を歪め、物凄く怒った顔になった。
「そんなの持ってきてるんじゃねーよ。
家のタンスの奥底にでも入れておけよ。
先生、こいつネックレスしてるから没収してください。」
「うちは偏差値が高い公立高校で、自由度が高いって人気らしいんだよ。
俺も今年度から新卒で来てマジで驚いた、金髪でもピアスつけまくってても注意しなくて良いらしい。」
尾崎先生がそう言ったタイミングで、やけに大きな笑い声が高校の門をくぐっていった。
「なんか、すげー格好良い男が2人もいたぞ?見たか?」
「全然見てな~い!!
私、格好良い男なんて何も興味ないも~ん!!」
「凄く可愛い女の子もいたよね?」
「え!!?どれ!?
・・・・全然可愛くないじゃん!!
ソっちゃん、ああいう女がタイプなの!?」
ピンク色っぽい茶髪を手の込んだ髪型にした、凄く垢抜けた女の子が私のことを門の向こう側から振り返りながら睨み付けてきた。
「マナリーの方がお洒落で可愛いよ。」
遠くなっていくその声を何気なく聞き、私はもう1度青さんのことを見上げた。
「青さん、ありがとうございました。
またメッセージを送りますね。」
「・・・・・・。」
青さんは何でか凄く怒った顔で私のことをジッと見下ろして、そして・・・
「暇だったら返信する。」
そう言って・・・
「そんな物、帰ったらすぐにタンスの奥底に入れておけよ?
そしてその報告も俺にしてこい。
俺そういうの気になりすぎてダメなんだよ。」
青さんは、大雪が降った後の道をずんずかと歩いていった。
歩いていってしまった。
何度も何度もタンスの奥底に入れておこうとしても出来なくて、その報告まで何度もした私に1度も返事をくれることなく。
私が全然上手くタンスの奥底に入れておくことが出来ないからか、私のことがもう面倒になってしまったのか、青さんは歩いていってしまった。
それから1度も暇にならなかったらしい青さんが、私の前から歩いていってしまった・・・。
「生まれ変わったら、ネコになりたいな・・・。」
呟いた私に、私の3人の“友達”は大きく笑った。
「じゃあ、今日から望はうちらのネコちゃん♪」
「ネコ飼い始めましたってバスケ部の奴らに自慢するから写真撮ろうぜ!!」
「望がネコとかバスケ部の男子がまたバスケに集中出来なくなって、また尾崎先生に怒られるんじゃない?
この前うちらで練習見に行ったら男子達が望のことチラ見し過ぎて怒られまくってたじゃん。」
「部活後に自慢するんだよ!!」
田代君がそう言って、私の腕を引っ張った。
“自慢”というわりにはその目は普通の目で。
他の男子みたいにエッチな目では全然なくて。
「みんなで撮るぞ!!」
何かあるとすぐに写真を撮りたがる、今時の普通の男子だった。
田代君もマナリーもソっちゃんも私のことを囲い、みんなで写真を撮った。
「お前のこのネコのポーズ、青さんにしてただろ!?」
「私も見た~!!
遠目だったけどこのポーズしてたの思い出した!!」
「青さんから返信は?」
ソっちゃんから聞かれ、教室の窓から雲1つない青空を見上げた。
「ないよ・・・。
でも、私にはコレがあるから大丈夫なの・・・。」
片手で一平さんの第2ボタンを握る。
「でも、お前の本当の気持ちは!?
・・・せーのっ!!」
田代君の声に釣られるように叫んだ。
「返事が欲しいよぉぉぉぉぉぉ・・・!!!」
私の望みを叫んだ。
この青い空に向かって叫んだ。
“ノンノン、そっちはどうですか?”
“そっちから青さんは見えますか?”
“私も早くそっちに行きたい。”
“普通の女の子じゃなくてネコで良いから早く生まれ変わりたい。”
“青さんからの返信なんて気にしなくても良いネコに、生まれ変わりたい。”
「ねぇ、田代さ、望が作ってきてくれたケーキにマヨネーズ掛けるの本当にやめなって。」
「望の兄ちゃんから貰った旨すぎるマヨネーズにより、俺はマヨラーの気持ちを理解したんだよ!!
それに望のスイーツが不味すぎて、こんなの普通食えねーよ!!!」
こってりした物や甘いものが大好きな田代君がそう叫び、私が一平さんのことを思って作った残りのケーキにマヨネーズを掛けた状態で不味そうな顔をしながらも食べている。
そんな邪道な食べ方をする田代君を眺めていた時、来た。
私のスマホにメッセージが来た。
それには慌ててスマホを取り出すと・・・
「写真送っておいたからな!!
お前の大好きな青さんに送ってみろよ!!
可愛がってた奴の側にこんなイケメンの男がいるって知って、嫉妬して慌てるかもだぞ!!!」
自分のことをイケメンの男と言った“結構イケメン”くらいの田代君に言い返したい気持ちになったけれど、私は田代君からの言葉通り青さんに写真を送った。
“友達”が出来たことも報告して、私の“友達”を青さんに知って貰った。
きっと見てくれてはいると信じて。
「青さん・・・。」
青い空を見るといつも思い出す。
青さんとの大切な思い出を思い出す。
何度も何度も思い出す。
だから今日も、私の上にいつも広がる大きな大きな空は、やっぱり綺麗だった。
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