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「よく覚えている。セシリア妃は美しい女性だった。『リリアの聖母なら必ず迎えに来てください』と言われた。ジャナークとジュリサからの手紙が届いた時、運命だと思ったよ」
リュートはほほ笑んだ。その顔にドキリとした。
「各国のΩにはリュート様と番になるには歳が近い者はいない。レイが無事で、リリアに献上できることはサザリアにとって幸運だ。レイがいなければ国民ともども滅んでいただろう。レイを引き換えにすることになるが、どうか、どうか許してほしい」
ジュリサは深々と頭を下げた。
僕が生きていなければリリアはサザリアを見捨てていたかもしれない。僕と引き換えにサザリアを救ってくれたということだろう。
僕の身一つでサザリアが救えたのならそれは幸運だ。
「地下での生活はとても寂しくて、退屈だった。だけど、不自由を感じたことはなかった。上での出来事は何も知らなかった。僕は、守られて生かされていたんだね。国に貢献できることを……これまでの御恩を返せることを幸運に思います」
「レイ……レイ。ありがとう」
ジュリサは再び頭を下げた。
真実はあまりにも複雑で混乱した頭ではこれ以上の言葉は出てこなかった。
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