二皿目

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スパイスは数万年にわたって人類に調味料、薬として、あるいはその両方を兼ねて医食同源的に使われてきた。 その中でも今見つけた〈 ターメリック 〉は特に有能なものだった。 カレーの材料として有名だが、実は漢方としても効果が高いとされている。 消化促進や殺菌作用、解毒作用などがある。 さらにターメリックに含まれるクルクミンには、身体の炎症を鎮める効果がある。 具体的には、身体の痛みを緩和する効果があるのだ。 まさに天然の抗生物質。 「和名は“ウコン”。その効果は長年、世界で愛用されてきた歴史を見れば明らかだな」 薬学の知識があるわけでもないまったくの素人がやるものだ。効果は薄いにしても、俺は元来のターメリックが持つ力を信じ、一縷の望みをかけてウコンを石ですり潰して、傷口にとにかく塗りたくった……。 「痛ってえぇ~~っ!?」と叫びたくなるのを必死に我慢して、とにかく塗りまくる。 薬として正しく調合したわけじゃないが、それでも効果は高いはずだ。 「はぁ……はぁ……!信じろ!信じろ信じろ信じろ!スパイスの力を!自然の力を!きっと治る!明日には元気百倍さ!」 涙目になりながらも何とか治療もどきを終えた俺は、木に背中を預けて深く息を吐く。 今手元にあるのは、このヒノキノボウと掘り出したターメリックだけ。 こんなので、どうやってこの先を生き抜けるというのか。 「ハードモード過ぎるだろ。うぅ……」 涙で歪む視界で、天を仰ぐ。 木々の隙間から見えた空はわずかに茜色に染まり始めていた。 もうすぐ夜になりそうだ。 夜になれば、夜行性の魔物たちが次から次にどんどん湧いて出てくるかもしれない。 「俺はただ、カレーが食べたかっただけなんだ」 毎日頑張って仕事して、ようやく来る休みの日に試行錯誤しながら作ったカレーをほうばって、『今週も頑張ったなー!来週も頑張ろう!カレーを楽しみにして!』って、言いたかっただけなんだよ。 「これからの人生を奪われた俺が、せめてささやかな幸せの証だけでも取り返そうと足掻いただけなんだよ……」 それなのに、なんでこんな地獄を見なきゃならないんだ。 「俺がなにしたってんだ!!」 怒りに任せて拳を地面に打ち付ける。 涙で見えない視界を掻き消すように、闇雲にヒノキノボウを振り回したが、恐れや不安や理不尽な現状に対する怒りは膨らむばかりだった。 「あぁ!神様!ガネーシャ様!カレーの神様!あの高慢ちきの女神じゃなければ誰でもいい!助けてください!この地獄から救い出してください!どうかお願いします!せめて、この逆境を覆す力を俺に与えてください!」 夜が迫り闇が濃くなっていくこの世界で、ひとりぼっちの声が虚しく響く。こんな深い森の中では、人ひとりの声など誰にも届くことはなかった。
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