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目を覚ますとそこは森の中だった。
女神の暴言を許せず、反抗したら穴に落とされたところで記憶は途切れていた。
「いてて……。背中打ってる」
背中に痛みを感じて身を捩ると、起き上がって状態を確認してみる。大丈夫。体を動かすのに支障はない。
上を見上げれば鬱蒼と生い茂る高い木々。薄暗い森のあちこちで何か獣のような声が聞こえる。
「あのオシャレ前髪女、よりによってこんな今にも襲われそうな場所に落としやがって。あぁ、そういえば、殺すつもりで送りこんだんだっけか。なら、効果テキメンだな。はは……」
足元を見ると、何か木の棒が落ちている。
そういえば、中指立てたところで女神が最後に癇癪気味に何か投げて来たな。それが頭に当たって、気絶したのか。
「女神からの餞別ってことで貰っとくか。あとで熨斗つけて投げ返してやらないとな」
俺は唯一、女神に貰った“ヒノキノボウ”を手にして身構えると、背後から飛びかかってきた影に向けて力任せに振り抜くのだった。
「はぁはぁ……。あぁ……腹減った……。カレー食いてぇ……」
数刻後、死にものぐるいで倒したよく分からない狼のような獣の横で、俺は膝を着いて天を仰ぐ。
「あと一晩、寝かせたら完成だったんだ。なのに、あのオシャレ前髪が!身勝手なわがままで俺の楽しみを奪いやがって!くっそおおぉーー!ちょっとお高いお肉も使った特別品だったんだぞ!ふざけんなよ!」
ー ぐぅ~~っ!
激しい運動の後に叫んだせいか、腹の虫も一緒に抗議の声をあげた。
「お前も腹ぺこだよな……はぁ……」
腹の虫を宥めるように、撫でると少し大人しくなってくれる。
仕方ない。こうなったら、もう一度挑戦しよう。
リベンジだ。
この異世界で『食べ損なったあのカレー』を再現……いや!それ以上の品を作ってやる!
さらにそのカレーをこの世界に広めて、あの高慢ちきな女神の作った世界をカレー色に染めてやろうじゃないか!
「ふ、ふふ……!あのカレーアンチの女神が泣いて悦ぶ姿が目に浮かぶぜ」
こうしてカレーによる華麗なる復讐劇が幕をあげるのだった。
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