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『綾香』
2024年2月24日土曜日12時。
優希の家へ行く支度を整え、玄関で優希と会うのを楽しみにしながら優希を待っていると、美しいインターホンの音色が家に響いた。
今日は、優希が私を家まで迎えに来てくれた。
一応、初めてだ。
私は、家の鍵を開け外へ出る。
「久しぶり。優希」
申し訳ない気持ちと、会えて嬉しい気持ちが混ざり、曖昧な心情になりながら優希にそう伝える。
優希は何より会えたことが嬉しそうな表情で、
「綾香。久しぶり」
と言い、にこって笑ってくれた。
私が家の鍵を閉めると優希は家の前なのにも関わらず私をバックハグした。
辺りに人の気配はなかったしまぁ大丈夫だろう。
私は遠慮なく優希の温かみに埋もれ、癒される。
「家、行こっか」
「そーだね」
私は、自転車を出し、優希の家へ向かおうとしたが、自転車は現在おばあちゃんの家に置いてあったことを思い出す。
外にではのは久しぶりだから、忘れてしまっていた。
「優希、どうしよう。自転車が無い。歩いていく?」
申し訳なく、優希に尋ねた。
しかし、優希はニコッと笑い、
「後ろ乗っていく?」
と優希が乗っていたママチャリの荷物置きのような場所を指さされた。
ニケツ、か。
初めてだし少し怖い。
だけど、優希とニケツをしてみたいという気持ちは前々からあった。
私は、少しオドオドしながら
「それじゃ、お願い」
と言い、座った。
そして、優希は自転車を漕ぎ始める。
優希との距離が近いためか、ダイレクトに優希の匂いが鼻孔を刺激する。
久しぶりに優希に会ったということもあり、少し興奮してしまった。
周りに人がいないことを確認し、私は優希に軽く抱きつく。
暖かい。
冬だから、人肌が恋しかった。
私の心を優希がどんどんと埋めていく。
優希と一緒に居れれば、なんでもいい気がした。
そうだ、これからは優希と毎日過ごそっかな。
家に帰ったら兄達に暴力振るわれるし、家には帰らず優希の家で寝泊まりしよっかな。
そのまま優希と一緒に毎日暮らして、高校を卒業したら優希と同棲して、そのまま結婚したいなぁ。
一緒に子供を作って、育てて、毎日愛し合いたい。
”何をすればいいのか”の結論が出たような気がしたが、この案は直ぐに却下された。
優希に迷惑をかけるのは違う。
優希だけじゃない。
こんなことをすれば、優希の家族にも迷惑がかかってしまう。
それに、私にはまだお母さんが居る。
私は、お母さんを守り、お母さんと共に生活する義務があるのだ。
なにより、お母さんと過ごす日々も幸せだ。
しかし、お母さんと過ごすとなると、次に兄達の問題が浮上してくる。
毎日殴られ、性的虐待を受ける日々はあんまりだ。
殺したいと言っても、殺せないし。
やっぱりあいつらから逃げるにはおばあちゃんの家に行くしかない。
だけど、おばあちゃんの家で暮らしていれば、お母さんと会える機会が無くなってしまう。
そしたら、お母さんは次こそ自殺を成功させてしまうかもしれない。
それはダメだ。
やはり、全てを解決することは不可能なのかな。
私に残された選択肢は、”何かを捨てる”か”理絃彰人大我を殺す”か。
どちらも私には出来ないよ。
そんなことを考えているうちに、優希のマンションへ到着した。
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