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第一章【誘い】
蝉の声が響き、アスファルトが太陽によって輝きを持っている。
夏は暑くて嫌いだ。
だけど、私は夏の匂いが好きだ。
なんだか新鮮な気分になれて、全てから開放されたような気分になれる、そんな匂い。
蝉の声がうるさいなぁ、と思いながら、私は夏の歩道を歩いている。
今日は2023年の7月2日。
日曜日なので、私は唯一の友達とも呼べる菜々美の家へ足を運んでいる。
私の家には自転車がない。
別に買って欲しいと言えば、すぐにでも買ってくれるだろうが、私はこれ以上お母さんに迷惑をかけたくなかった。
私の家は母子家庭であり、お金もあまり無い。
私が小さな頃、実のお父さんはこの家に多大なる借金を残し逃げていった。
今も何処かでのうのうと暮らしていると考えると心底腹が立つ。
私が物心着く前に、お父さんはこの家を出ていったので、私はお父さんの顔をあまり覚えていない。
思い出そうとすれば、記憶に霧のような靄が漂っている感覚に陥り、肝心なところを思い出せないのだ。
まぁあいつの事なんかどうでもいい。
今日はせっかく菜々美と遊べる日なのだから、存分に楽しもうでは無いか。
そんなことを考えているうちに菜々美の家へ着く。
菜々美のお父さんは何処かの会社の社長らしく、そこそこのお金がある。
家も凄くでかい。
だから、毎回インターホンを押すとき、少し緊張してしまう。
私は少しの緊張を保ち、菜々美の家のインターホンを押す。
ピンポーンと音が鳴った。
私は改めて
大きな家だなぁ
と思いながら、家を見上げる。
菜々美の大きい家を眺めているうちに、インターホンから菜々美の声が聞こえてくる。
「……綾香〜?」
私の名前が呼ばれる。
反射的に私は
「菜々美〜。着いたよぉ」
と返事をした。
すると菜々美が
「鍵空いてるからそのまま入っていいよ」
と、返事をしインターホンの通信が途切れた。
私は、鍵がかかっていない家のドアを開け、そのまま中に入る。
玄関も私の部屋と同じぐらいの大きさがあるので、始めてきた時は凄く驚いたのを覚えている。
私は靴を綺麗に並べ、辺りを見渡す。
菜々美が階段から少し急ぎめで駆けてくるのが見えた。
「綾香〜。お待たせ」
ロングの髪の毛が、走っていることもあり靡いていた。
菜々美は顔面偏差値が物凄く高そうな顔をしており、学校でもそりゃぁモテている。
目はパッチリ開いており、髪はサラサラでおっぱいも大きくスタイルが良い。
1度だけ、あのおっぱいに埋もれてみたいなと変態的な考えを見る度にしてしまう。
私はそのまま菜々美と合流し、手を取り合い階段を上った。
家が大きい分、菜々美の部屋に行くまでも結構な距離がある。
その間も私は菜々美と会話を交え、幸せな気持ちになっていた。
菜々美はいつも忙しいので、あまり会える機会がない。
だから、久々に会えて、私は凄く嬉しかった。
たわいない話をしているうちに、菜々美の部屋に着く。
菜々美の部屋は女の子らしい物が丁寧に片付けられており、いい匂いがした。
同性であるのにも関わらず少しドキッとしてしまう。
「適当に座っていいよ〜」
と菜々美に言われたので、私はベージュ色の可愛らしいソファに座った。
そのまま菜々美も私の横に座る。
そのまま私達は、いつも通りたわいない会話を続けた。
好きなアニメの話、学校の話、テストの点数、色々雑談をした。
学校で私は孤立しており、余り心地の良い日々を送れていないので、学校の話をする時は少し虚しい気持ちになってしまう。
それでも、菜々美と駄弁るのは、凄く楽しかった。
数時間経って、時刻は4時手前。
何故か、話の話題は私の好きな人へと転換されていた。
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