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 そして、ルークの神官就任から五年後。ライサンは再び異例の大出世をする事となる。  アシェイラ支部、神官長就任。それも、二十五歳という若さで……。  史上最年少の神官長の誕生だった。  ライサンの神官長就任が決まると同時に、ルークも神官長補佐に就任した。配属先は、アシェイラ支部。つまりは、またまたライサンの直属の部下。それも、最も近くで彼を支えなくてはいけない役職だ。  二十歳で本部の神官長補佐になったライサンよりも遅いが、それでもルークの二十三歳での神官長補佐就任は早過ぎるという感が否めない。 (俺はもしかして、呪われているのだろうか)  ライサン・セリクスという名の呪い。  神官になってからというもの、ライサンの直属から外された事がないのだ。  ルークはその現実に、心底うんざりする。  あまり好いていないライサンの顔を年から年中見ていなくてはいけないという現実。悪夢のようなこの現実から逃れられる日が来る事をルークは密かに願い続けていた。  それから、二年…………。 「があああああ~~、セリクス~~~~ッ!」  今日も今日とて、ルークは神殿中に響くような怒鳴り声を上げて、スティック状の干菓子を食べながら逃げ走る上司の後を追いかけていた。 「この馬鹿神官、阿呆神官、クサレ上司! それは、来賓用にとっておいた菓子じゃ、ボケ~~~~ッ!」  目を血走らせてそう叫ぶルークの言葉を聞いたライサンは、軽く目を見張って後ろを振り返る。 「おやおや、そうだったんですか~? 駄目じゃないですか、きちんとその旨書いておかないと」  飄々とそう言いきったライサンに、ルークの怒りはどうしようもない位に膨れ上がる。 「くおのっ、神官の恥さらしが!」  アシェイラ神殿敷地内の道を全力で走り、追いかけっこをしている神官長とその補佐役。  それはこの二年というもの、毎日のように繰り返されてきた光景であるので、もはや誰も何もつっこむ事をしなくなっていた。  そう……、学生時代、誰からも慕われ、心酔される程、優秀な代表生徒だったライサンは、神官になった途端、このようにふざけた態度をとる不良(ルーク視点)になってしまったのである。  いや、人づてに聞いた話によると、ルークの神官就任前までは、真面目で優秀な神官だったらしい。  彼が壊れた(?)のは、ルークが神官となり、神殿に正式に上がってからだ。  つまりは、ライサンが本部の神官長補佐だった時から既にそうだった事になる。付き人だったルークは、散々彼の尻ぬぐいをやらされてきたのだ。  しかも、それは神官長になってからというもの、更にひどくなった。  厨房で食べ物をつまみ食いするし、廊下を無遠慮に走り回り、忽然と姿を消したと思ったら、屋根の上で昼寝し、平気で会議には遅刻。その上、人の顔にはらくがきするし(ルークの顔にだけだ)、人の机の引き出しを接着剤で開けられなくする(ルークの机だけだ)。  なんだ、これが二十代の半ばを過ぎたいい大人がする事か!?  学生時代、ルークの先輩であり、ライサンの友人の一人でもあった、リチャード・ライチェルが、一年前に神官査としてサンジェイラ支部からアシェイラ支部に転属されたが、あまりにも様変わりしてしまった旧友の姿に大爆笑していた。  ーあははははははは~! すご~~い、変な風に変わっちゃったねぇ、ライサン! ははっ、今の君を見て、トリスラム達はどんな反応するかなあ?ー  学生時代よりも長くなった黒髪を振り乱して爆笑するリチャードに対し、ルークは冷たい声で言った。  ー笑い事ではないのだが? ライチェル神官査ー  そんなルークの顔をじっと見て、リチャードは悲しそうな顔になる。  ーあ~あ。大人になっちゃったんだね、ルーク。昔は可愛かったのにさ。僕の守備範囲は十八歳までだから、君は僕のタイプじゃなくなっちゃったよ。ごめんね?ー  ーあはは~、それはそれは良かったですねぇ、ルーク。リチャードが少年趣味(ショタコン)でー  リチャードの変態台詞に続いたライサンの馬鹿台詞に、ルークは怒りのあまり軽く血管が切れかけた。  ーど阿呆共~~~~!ー  馬鹿上司だけでも手に余るのに、その上変態部下。ルークの苦労は増えるばかりである。 「は~は~は~、……クソッ」  そんな過去をフラッシュバックしている間にも体力が尽きかけて、ルークはその場に立ち止まった。  その時。 「大丈夫ですか? ウインター神官長補佐」  響いた声は、息を弾ませるルークを純粋に心配する優しさに満ちていた。 「だ、大丈夫だ、アルターコート神官」  途切れ途切れにやっとそう答えたルークの目の前までやって来たのは、一人の神官。両手に書類を抱えた、翠緑の髪の盲目の青年だった。 「セリクスのど阿呆が、菓子をつまみ食いして逃げ回るのを追いかけていただけだからな」  ふうっと一息ついてそう言った上司の言葉を聞き、彼は呆れたような返事を返した。 「またですか?」  セフィ・アルターコート
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