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リュカ老師は自分の孫の思わぬ不器用さにため息をつきつつ、二人の言い合いを止める為、問題になっておる渦中の難題を口にした。
「それで、誰かおらぬのかのう? 王子達の美貌に耐えられそうな人材は」
自分達神官が崇拝し、唯一神として崇める創世の女神より美の恩恵を授かった女神の子供達。彼らと行動を共にするという事は、その美貌に耐えられる者でなければならない。
嘘のような話だが、実際問題、このアシェイラ国の第一王子にして剣主、かの有名な氷の王子、レオンハルトの麗しの美貌と滴るような色香に惑わされた繋ぎ役の任に就いていた神官が一名、使い物にならなくなっていた。
こちらの問題も、早急に手を打つ必要があるだろう。
傾国の美貌を持つという兄王子と女性殺し|(レディキラー)の美貌をもつという弟王子。
ルークはその姿を見た事はなかったが、噂ではよく耳にする。聞いた話によると、確かに二人共、信じられない程美しい容姿をした青年のようだ。
特に要注意なのが、兄王子。
凛々しく甘やか。男らしい、さわやかな美男子然とした容姿、雰囲気の弟王子に夢中になるのは女性限定だが、兄王子の美貌は、男女問わずに破壊的な威力をもたらす。
その色香に骨抜きにされた人間は数知れず……。
(容姿がせめて人並みなら、こんな事で悩む必要もないのだがな)
美し過ぎて困る。というのも、なんだか贅沢な悩みである。こうなったら、神子達に仮面でもつけていただくしかないような気もする。
そう、顔が見えなければいいのだ。顔が……。
(ん?)
そこで、ルークはようやく気づいた。この任務に最適な人物の存在を。
「……一人、心当たりが」
少し悩みながらそう言ったルークに、ライサンは興味を示して尋ねる。
「おやおや、どの方ですか?」
「地方の教会の神父をしていた奴で、最近神官になったばかりなんだが……。名前は、セフィ・アルターコート。真面目で人当たりもいいし、肝も据わっているから、サポート役としては適している。それに…………」
そこで、ルークは言いにくそうに言葉を切った。
「それに……? 何ですか?」
相手の身体的に不利な点を口にするのは気が引けたが、まあ、相手は腐っても上司。報告しない訳にはいかないだろう。
「アルターコートは目が見えないんだ。つまりは盲目だから、王子達の、いわゆる女神の美貌に惑わされる心配もない」
ルークの言葉を聞いたライサンの、優しい聖者の瞳が揺らぐ。
「そうでしたか。お気の毒に……」
その表情や仕草は慈悲深く、彼が心の底から、セフィ・アルターコートの障害の事を痛ましく思っている事が伝わった。
いつもは駄目駄目でグダグダな阿呆神官なのに、時折見せる表情や仕草に、神官長としての適正と、聖者としての資質を見る時がある。
きっとライサンは、自分などより神官という職業に向いているのだろう。それが羨ましく、そして腹立だしい。
「でも、目が見えない分、他の五感が発達したとかで、日常生活で不自由はしていないみたいだったから、大丈夫だろう」
自分にないものすべてを兼ね備えているライサンをひがんでいる事実が嫌になり、ルークは誤魔化すように頭を掻きながら口早に告げる。
「では、王子殿下方のサポート役の神官はその方でいいでしょう。諸々の手続きとアルターコート神官にこの事の伝令をお願いしますね、ルーク」
相手の内心の複雑な思いなど知る由もないライサンは、にっこりと微笑みながらそう指示を出す。ルークはそれに頷くと、敬愛するリュカ老師に会釈をし、神官長室を後にした。
神子様方の任務のサポート役。
普通に考えれば、元神父という経歴を持つ神官がその役目に就くという事は、ものすごい大抜擢である。
しかし、選ばれた理由が理由だ。それを説明しなければならないという事と、彼を推薦したのが自分であるという事実。ルークは気が重くなるのを感じながらも補佐室に戻り、自分の付き人であるラテーヌに言った。
「アルターコート神官を呼んでくれ」
「はい」
従順な返事を返して退室していくラテーヌを見送った後、ルークは長々と重いため息をついたのだった。
「私が神子様方の任務に同行……ですか?」
仕事机を挟み、向かい側に立った翠緑の髪の青年を座った姿勢のまま見上げたルークは、無言のまま頷こうとしたが、相手の事を考えて肯定を口に出して答えた。
「ああ」
白い瞼で固く瞳を閉ざした、盲目の神官。その実直さ、真面目さを気にいり、最近最もルークが気にかけている神官だ。
ルークの告げた任務内容を聞いた彼は、驚きを隠せない様子で戸惑うような素振りを見せる。
(無理もないな)
ルークやライサンのように神学校を卒業したエリート神官でないセフィは、元々は神父の経歴を持つ神官なのだ。教会に務める一介の神父が神官になるには、並々ならぬ運と努力が必要になる。その上、それ程の狭き門をくぐっても、神学校を卒業した純正の神官と同じ高みまで上がる事は不可能に近い。
神官査より上の位には、元々の家柄が格式高いエリート達しか現時点で存在しないのも事実だ。
「私のような者でいいのでしょうか?」
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