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その上、盲目であるというハンデもあるのだ。本当ならもっと早くに、彼を補佐出来る付き人をつけるべきだった。
神子達の浄化任務の旅に同行し、帰都した後、ルークが出した提案は受理され、セフィは繋ぎ目の任に正式に就いていた。
彼の仕事ぶりは素晴らしく、ルークが感心する程に上手くやってくれていたのだ。それ故に、彼のこの願いもルークは快く受け入れ、叶えるつもりでいたのだ。
「何人欲しいんだ? 今は特に大変な時だからな、四~五人いるか?」
優秀な神官を頭の中の名簿からピックアップしていたルークに向かい、セフィは慌てて両手を振った。
「いえ、いえいえ、そんなにも必要ありません。二人、いれば大丈夫だと思います。それに、私などの為に有能な人材を割かせる訳にも参りません。私の付き人は、今期入った新人達から選びます」
「しかしなあ……」
ルークは、真面目に良くやってくれているセフィの負担を少しでも減らしてやりたかった。
「それに、いい人材を見つけましたので。許可さえ頂ければ、彼らを私の付き人に」
セフィの要望に対し、ルークは渋々ながらも頷く。
「まあ、お前が気に入っているなら俺は何も言わんが」
「ありがとうございます、神官長補佐」
何故かほっとしたような表情で深々と頭を下げたセフィを、ルークは探るような視線でじっと見つめた。
「……なんですか?」
じい~~~~っと、それこそ、穴が空くほど真剣な眼差しで凝視されているのを感じ取ったセフィは、不思議そうに首を傾げる。
「アルターコート。最近、気になる噂を耳にしたんだが」
珍しく歯切れの悪いような言い方をするルークに、セフィはますます意味がわからなくなる。
「はあ……」
噂? って、何の???
「お前、夜中にセリクスの私室に行っているそうだな」
「な、何故、それを!?」
絶対に誰にも知られてはいないと思っていたセフィは、ルークの言葉に驚きの声を上げる。
「本当だったか。お前達の事だ。噂にあるような事はしていないとは思うが、一体何やってるんだ? 真夜中に」
「そ……それは」
言いよどみながら両手の親指を擦り合わせるセフィの様子を見つめ、ルークは身を乗り出して尋ねた。
「まさか、本当なんじゃないだろうな!?」
「噂とは、どのような噂なのですか?」
噂話に疎いセフィは、ルークの言う噂がどんなものなのか全然わからなかった。
「それは……、あれだ。おそらく、お前の急激な出世を妬んだ輩が流したくだらん作り話だ」
元神父の神官が体で神官長にとり入って、神子様との繋ぎ役の任に就いた。
そんな下卑た噂話が、このアシェイラ支部では流されていた。
(本人の耳に、こんなくだらん噂話が届いていないのは不幸中の幸いだが。新人達が入殿する前にこの騒ぎを鎮めないといかんな。まったく、どこの馬鹿だ! 余計な仕事を増やしたのは!)
ギリギリギリ
歯ぎしりをしながら貧乏揺すりをし始めたルークの様子を悟ったセフィは、この事を突っ込んで聞くのを断念する。
「では、神官長補佐。私はこれで失礼致します」
「あ、ああ」
ゆったりとした動作で頭を軽く下げたセフィに頷くと、ルークはこの盲目の青年がしっかりとした足どりで部屋を退室して行くのを見送った。
「はっきり教えても良かったのではないですか?」
パタンと扉が閉まると同時に響いた声に、ルークは眉根を寄せて声の主の方へ顔を向ける。
「馬鹿を言え。あんな馬鹿げた噂」
「でも、火のない場所に煙は立ちませんよ?」
ルークの視線の先で淡々とした口調でそう言ったラテーヌの目はルークの方に向いておらず、机上の書類の文字を追い続けている。
そんな、自分の付き人の態度にも慣れているルークは、ラテーヌの言葉に言い返す。
「では、お前は、二人が、その、なんだ……、そ、そんな、ただれた関係だと思うのか!?」
「さあ? アルターコート神官に聞けないなら、もう一人の容疑者であるセリクス神官長に聞いてみればいいのではないのでしょうか」
パラパラパラ
書類をめくり、チェックを入れながらそう言ったラテーヌは、その大量の書類類の中から一つ選び出して立ち上がった。
「ウインター神官長補佐、グットタイミングですよ。その噂話を流した犯人が特定出来たようです。こちら、報告書になります」
ラテーヌから手渡された書類に目を通したルークは、そこに並べられた予想通りの人物達の名前を確認して嘆息した。
神官の中でも末端にいるような、気位ばかりが高い元貴族のボンボン達。
自分よりもあきらかに格下の身分のセフィの出世を妬んでの事だろう。
「こいつらには謹慎処分を言い渡すよう、シャルに言っておいてくれ。奴らの態度次第では、神殿名簿からの除籍処分も考えよう」
除籍処分。それは、神官でなくなるという事。簡単に言えば、解雇処分……クビだ。
「それは、厳し過ぎませんか?」
ラテーヌの驚きの声にもルークは譲らずに告げた。
「神子様方の生誕の儀を控えた大事な時に騒ぎを起こしたんだ。それは、神子様方を冒とくしたのも同じ事。神の使徒として、絶対に許されない」
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