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 神官、巫女。神と神子に仕える使徒。自分達は、少しの穢れも許されぬ、聖なる砦。  通常、厳しい教育を受けて正式に神官として認められるようになるのだが、中には今回の噂を流した首謀者達のようなくだらない者もいるのだ。  コネと財力で、神官の座を手に入れた馬鹿共。  潔癖で神経質なルークは、そういった輩に対する処遇は容赦がなかった。  容赦なく神殿内から追放し、制裁を下す、鬼の神官長補佐。影でそう呼ばれる事もあるルークだが、真面目な者や見込みのある者を見出す才に長けていた為、現在のアシェイラ神殿の高位にいる者達は、実力、人格共に優秀な者が揃っていた。  中には、実力はあるが人格が破綻している者もいるにはいたが……。 「ちょっと、ルーちゃん! ライサンがまたいないよ~、早く探してきてよ~~ッ!」  人格破綻者、リチャードがそう叫びながら飛び込んで来るのを見ると同時に、ルークは怒鳴った。 「上司の部屋を訪ねる時はノック位しろ! この、馬鹿ワカメがッ!」 「あ……、ごっめ~ん!(テヘ)」  舌先をチョロっと出してウィンクをして見せたリチャードのふざけた態度を見て、ルークのこめかみは怒りのあまりピクピクと震えた。 「神官長補佐、あまり怒るとまた血圧上がりますよ。この前の健康診断で要注意だったじゃないですか」  無表情のままそう言ったラテーヌの言葉を無視し、ルークはイライラしながら言った。 「セリクスの馬鹿など放っておけ! 腹が減ったら勝手に帰ってくるだろう」 「そ~なんだケドさ~。今回の中途の新人達の受け入れ準備の事で相談があって~。ルーちゃんでいいから一緒に考えてよ」  頬をポリポリ掻きながらそう言うリチャードの相談を受け、ルークは若干険を和らげる。 「わかった、お前の部屋に行こう」  ルークの返事にほっとしたような顔をしたリチャードに気づき、ラテーヌは心の中で呟く。 (本当に、アシェイラ支部はウィンター神官長補佐がいないとダメですね)  その為にも、ルークにはいつまでも元気で健康に長生きして欲しいのだが……。  平気で食事を抜いたり、睡眠を削ったりしている不健康なルークの生活を知っているラテーヌは、いつか彼が倒れるのではないかと密かに心配していた。 (一人部屋ではなく、誰か世話焼きな人と同じ部屋で暮らした方が、神官長補佐の健康の為にはいいのだけれど)  一日三食きちんと食べさせてくれて、夜更かししそうなルークを叱ってくれる人。  しかし、ルークが神官長補佐というアシェイラ神殿での位では№2の高位に在るだけに、そんな事が出来そうなのは神官長位しか思いつかない。 (でも、あの不真面目なセリクス神官長では無理そうですね)  そう結論づけると、ラテーヌは再び自分の仕事に戻ったのだった。 「あははは、なんだか、面白い噂が流れていたようですねぇ」  数日後、例の噂話が沈静化する頃合いになって、ようやくその事を話題に出したライサンにルークは呆れた。  本日は運良く神官長室に姿が在るライサンである。 「お前……。今更、何言ってんだ」 「だって、私が出る幕なく治めてくれたのでしょう? 優秀な部下を持って、私は楽……いえいえ、助かりますよ」  今、楽だって言おうとしなかったか?  不審そうな顔のまま、ルークは持っていた書類を渡した。 「今回中途で受け入れた新人達の書類だ。もう、ちらほら入殿して来てはいるが……。明日には皆揃うだろう」 「ご苦労様です」 「ではな。そこに今回の件の報告書を置いておく。後で取りに来るから、神官長印の押印と本部へ提出する除籍処分書を書いておいてくれ。きちんと仕事してろよ、セリクス」  すぐに行方をくらます上司の事を疑って、ルークはいつものようにそう言って踵を返そうとした。だが、次の瞬間、そんな部下の手をライサンは取った。 「お待ちなさい、ルーク」 「なんだ?」  この忙しい時に。という思いを込めて見返したルークの頬にライサンは手を伸ばす。 「なっ!」  驚愕に目を見開くルークの顔を真剣な表情で覗き込みながら、彼は心配そうな声で言った。 「また顔色が悪い。隈も濃いですし、昨夜はきちんと眠りましたか?」 「…………」  何を隠そう、徹夜である。 「シャルに聞きましたが、食事もろくにとっていないようですね?」  真面目で仕事も出来る優秀な神官であるルークの欠点が、自分の体調を省みない事だ。今は若さで補っているようだが、いつまでもそんな事出来るはずもない。 「お前には関係ないだろう!?」  そう怒鳴って、自分の手を払うルークの反抗的な眼差しを静かに受け止めた後、ライサンは宣言した。 「そのような生活を続け、もし体調でも崩した時は、私と共に暮らしていただきますよ、ルーク」 「は? なんだと!?」  何故、そうなる!? 「わかりましたね?」  にっこりと笑ってそう告げたライサンを睨み返した後、ドスドスと音を立てて扉まで移動すると、ルークは荒々しく神官長室の扉を開け、わざと大きな音を立てて閉めた。  バターーーンッ 「勝手にしろ!」
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