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 ふわふわとした白髪、優しい薄茶色の瞳の、リュカ老師によく似た雰囲気の年上の少年。  まるで兎のようだ。と、初めてその姿を見た時、思ったものだ。目が赤かったら、自分が面倒みている飼い兎にそっくりだった。 「ルークや、紹介するからおいで」  大好きなリュカ老師に呼ばれて慌てて駆け寄ると、その少年はにっこりと笑う。それを見て、感情を表に出す事が苦手な自分は、無言のまま慌てて彼から目を逸らした。 「レイデ神学校に在学中の、ワシの孫だよ」 「え!?」  予想外の言葉を聞いたルークは、びっくりして少年の隣りに立つリュカ老師に視線を移す。  リュカ老師が神官になる前に結婚し、子供をもうけていた事は知っていた。神官になり、創世の女神の守護者となってからは、家族と交流を持っていない事も……。  そんな彼の孫が、神学校の生徒。 「はじめまして、僕の名前はライサン・セリクス。十歳だよ。君は?」  穏やかに挨拶をする少年、ライサンに向かい、ルークも渋々ながら自己紹介をした。 「俺……俺はルーク。ルーク・ウィンター。八歳……」  そう言ったきり黙ってしまったルークをじっと見つめていたライサンは、傍らに立つ祖父を呼んだ。 「お祖父(じい)様」 「!?」  その呼び方に、ルークは肩を震わせて反応する。本当の孫であるライサンが、この聖人をそう呼ぶのは当たり前の事だ。いくら養い子とはいえ、自分はリュカ老師とは血の繋がらぬ赤の他人なのだから。  でも、祖父とも父とも慕う敬愛する養い親が、実の孫であるライサンに取られてしまうようで、ルークは知らず知らずの内に唇を噛みしめていた。 「今度神学校に入る子って、ルークでしょう?」  そうして続いたライサンの言葉を聞くと同時に、ルークの気持ちは更にどん底に落ちたのだった。  そんな  嘘だ  そんなはずない!  期待に満ちた目で自分を見つめるライサンをルークはキッと睨みつける。  リュカ老師が自分を手放すはずない!  しかし、ルークの期待は裏切られるのである。 「ああ、そうだよ。ライサン」 「リュ、リュカ様ッ!?」  リュカ老師の答えに対し、ルークはつい縋るような目を養い親に向けてしまう。 「嫌です! 嫌です、俺は。リュカ様と離れるのは、絶対嫌です!」  そう言いながらボロボロと大粒の涙をこぼすルークを見て、ライサンは驚いたようにわずかに目を見開く。  だが、リュカ老師はふさふさの白い眉の中に埋もれた小さな薄茶色の瞳を和ませると、シワシワの手で養い子の頭を撫でて言った。 「ルーク……ルークよ。ワシもお前を手放すのは嫌なのだよ。でも、そろそろお前の将来の事を考えねばならん。こんな所でこんな爺と二人で人生を終わらせる訳にいかんし、ワシ自身、セイントクロス神殿から再三お呼びがかかっておる。そろそろ本部に戻らねばならぬのだ」 「でも……でも、リュカ様」  泣きじゃくるルークの涙を拭いながら、リュカ老師はいたずらっぽく笑う。 「男の子がそんな風に泣いては恥ずかしいぞ? ほら、ライサンも見ておる」  その言葉にはっとして、白髪の少年に目を向けると、ライサンは目を逸らす事なく自分の泣き顔を見つめ続けていた。 「……ッ」  しゃっくりを上げながらも、ルークはゴシゴシと服の袖で涙を拭こうとする。それに気づいたリュカ老師が手を差し出すよりも早く、ライサンの手が伸びた。上着のポケットにしまわれていたハンカチで、ルークの頬を優しく拭いたのだ。  いきなりの事に、ルークは呆気にとられてしまい、すぐ反応を返せない。 「ほっほっほっ、ライサンはルークが気に入ったようだの」  リュカ老師が嬉しそうにそう笑うから、その手を振り払う事が出来なかった。 「はい、お祖父様」  すぐに返されたその返事を聞いた途端、ルークの胸の内にモヤモヤとした不快なものが再び広がる。幼いルークには、その感情が何なのかよく理解出来なかったが、それはまぎれもない嫉妬の感情だった。  ルークはライサンに嫉妬したのだ。  リュカ老師の実孫という、その、どんなに自分が望んでもなりえないものである彼に……。  ライサン自身がどんなにいい少年だったとしても、関係なかった。この瞬間、ルークにとって、ライサンの存在は最悪なものに位置づけられてしまったのだ。 「これからはライサンをワシの代わりと思うがよい。ライサンの方が二つ上だし、お前の兄代わりになるだろうよ」  絶対ない!  こんな奴、嫌いだ! 「わかっておくれ、ルーク。お前の為なのだよ。学校に入れば友達も作れるし、たくさん勉強も出来る。レイデ神学校を卒業すれば、神官にならずとも色々な仕事に就く事だって出来るのだ」  そんなリュカ老師の言い含めるような言葉に逆らう事も出来ず、ルークは神学校行きを了承する事になってしまうのである。  その出来事より、半月後。
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