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 レイデの木を模った学園の紋章の刻まれた小さなピンバッチは、学園の代表生徒たる証。女神の色とされる褐色を使用したそのブレスレットは、見習い神官の印。  ライサン・セリクスは、とんでもない優等生だったのだ。  神学校入学後のルークは、四年生で見習い神官になり、ライサンと同じように、セイントクロス神殿で神官見習いとして働けるようになった。  十一歳の時である。  わずか九歳の時、特例ケースで見習い神官に抜擢されたライサンよりも遅れたが、それでも十分若過ぎる見習い神官誕生だ。  元孤児であり、貴族の出身ではないルークは、リュカ老師の影響、つまりはコネで神学校に入学出来たようなもので、それを妬み、嫌がらせをする生徒が後を絶たなく、リュカ老師が期待していたような友人と呼べる友人を、ルークはとうとう作る事が出来ないまま、神学校を卒業する事になる。  レイデ神学校でルークに構ってきたのは、人望が厚く、優秀な特別生徒だったライサンと、その仲間の学友のみ。  しかし、その全校生徒達の憧れの的であったライサンが、優秀ではあるが、嫌われ者のルークを気にかけているという事実が、他生徒達とルークとの距離を広める原因の一つでもあったのだ。  ルークはそれでも良かった。  他者の才能をひがみ、出生を馬鹿にするような低俗な輩の嫌がらせを気にかける時間すら惜しい程、神学の勉強に明け暮れていたからである。  いずれ自分は神官になり、たくさん出世をして、リュカ老師の元で、創世の女神への祈りと女神の子供達の守護の為に働くのだ。  それが、自分の人生の目標。  大神官の一人であるリュカ老師の元で働くには、並大抵の出世では駄目だろうが、ルークはそれだけの努力をしているつもりだった。  その結果として、常に学年でトップの成績を納めていたのである。 「あれ~? そこにいるのは、ライサンのルーちゃんじゃない~?」  学園内にある唯一の図書室で読書をしていたルークは、聞こえてきたかなりユルい声に気づき、不機嫌そうな眼差しを上げた。 「あはっ、やっぱり、ルーちゃん。そんな綺麗な赤い髪をした生徒は、この学園には君しかいないもんねぇ」  長い前髪を簡素なヘアピンで留めている、鳶色の瞳の少年。  リチャード・ライチェル  将来有望な神官候補であり、この学園の代表生徒、ライサン・セリクスの、とりまきという名の学友の一人。  何故だかライサンの弟分であるルークに興味を抱き、異様に接触してくるのだ。  そして、何かと兄貴風を吹かせたがるライサンを無意味に嫌い、煙たがっていた子供時代を経て、十五歳・神学生八年生になる頃には、普通にライサンと言葉を交わす程度に打ち解けてはいた。  それ故に、ライサンの仲間達と接触する機会も多くなっていたのだが……。  勝手に隣に座って、馴れ馴れしく顔を寄せてくるリチャードが、ルークは正直言って苦手だった。彼は得体が知れなかったからだ。 「ライチェル先輩、俺はあいつの所有物じゃないのですが」  相手が先輩でなければ 「ふざけんじゃねぇ! 誰があいつのもんだって!?」  と、怒鳴り散らしたい気分である。 「え~~~~っ? 何言っちゃってるの??? ライサンがルーちゃんをすごく可愛がってる事は、みんな知ってるよ~、ねぇ? トリスラム、ハイネス」  その言葉を聞いたルークは、リチャードの後ろに立つ、無表情のままその奇行を監視する少年と、病弱と思われる程に線の細い少年に目を向けた。 「いい加減ルークを揶揄うのを止めなさい、リチャード。ライサンに怒られますよ」  無表情のまま、まるで機械のような無機質な声音でそう言ったトリスラムに向かい、リチャードは不満そうな顔をする。 「え~~~~って、ゆ~か、お前達、なんで僕の後をついてくるのぉ?」 「ライサンの指示です。あなたの魔の手から、ルークのような、いたいけな後輩達を守るようにと……」  若干ふらふらしながら(貧血か?)、今にも倒れそうな風情でそう言ったハイネスの言葉に同意し、トリスラムも頷く。 「そうです。ライサンのルークを、お前の変態趣味の餌食にする訳にはいきません」  またしても、所有物扱い。  ルークは、ついつい、ムッとしたような表情を浮かべて、トリスラムを睨みつけてしまった。 「ん? ルーク、いいのですよ。あなたの気持ちはわかっております。変態から救ってあげたお礼など、全然これっぽっちもいりません。そう。すべてはっ、創世の女神、セイントクロスの母神様のお導きなのです!」  リンゴ~~ンッ  どこからか鐘の音が響くと同時に、トリスラムはその場に跪き、祈りの体勢に入ってしまった。相変わらずの勘違い人間だ。 「ま~、そういう訳ですので、リチャード。しばらくは、僕らの監視に辛抱して下さいね」  ヨロヨロ  「え~、嫌だよ~~! お前らいたら、遊べないじゃん。今日はルーちゃんを僕の部屋にお誘いしようと思ってたのに……」
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