逆エイプリルフール

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* * * 「さあ、掛けてくれ」  執務室に入ると王子は、早く座れとい言わんばかりに机を叩いた。王子の正面に椅子が置かれていた。向かい合ってじっくりと話すつもりらしい。 「で、試してみてどうだった?」 「まず、確認させてください。この場も、逆エープリルフールとやらと思っていいのでしょうか?」  私は王子をしっかりと見据えた。こんな形で視線を合わせるのは初めてかもしれない。 「もちろんだ。全て本音で話してくれていいぞ」 「王子は、いつも無理難題をお出しになる。今回も散々でした」 「そうか。どう散々だったんだ?」  無理難題と言っても怒る様子はなかった。本当に思っていることを話せということだ。 「息子に苦言を言われました。遊園地に行く約束を破ったと」 「それは、君が悪いのではないか?」 「突発で仕事が入るのが悪いのです! 労働環境が圧倒的に良くない。常に携帯端末を持ち歩かないと罰則だなんて、行き過ぎだと思います」  言ってしまったあと、冷静に我に返る。こんなことを王子に言っていい訳がない。更迭ものだ。 「分かった。では、対処しよう」 「対処……ですか?」 「あらかじめ設定した休みは変更できないようにする。あと、退勤後の携帯端末の使用は禁止としよう」 「本気で言われてますか?」 「もちろんだ。今日はそういう日だと言っただろう。で、息子さんとはどうなった?」  口をポカンと開ける私のことは気にせず、王子は家族との話を聞きたがった。 「今度の休みに家族で遊園地に行く約束をしました。それで、仲直りしました」 「奧様とはどうだったかね?」 「妻からは、凄い剣幕で不満をぶちまけられました。家庭崩壊かと思うほどでした」  王子は眉を寄せて「それは穏やかじゃないな。で?」と問い返す。 「子育ての負担が自分に寄り過ぎていると。あと、私が傲慢すぎるとも」 「それで、その後は?」 「何とか、仲直りしました。いつか渡そうと思ったまま、渡していなかった物がありまして。妻が街で気に掛けていたネックレスです。こっそり買っていたのですが、手渡すのが恥ずかしくて」 「そうか、隠し玉を使ったということだな! どう言って渡したんだ?」 「感謝を伝えました。あとは、愛しているとも。これからは約束は守るし、子育ても分担すると。怒っていたはずの妻は、涙を流していました」  王子は、腕組みをして大きくうなづいた。目を閉じ、満足げな笑みを浮かべながら。 「この制度を導入することについて、君の意見を聞きたいのだが」  私はじっと王子の目を見て、返答内容を思案した。 「導入すべきと考えます。国民同士が相互に理解しあえる、革新的な政策だと思います」 「採用しよう。すぐに準備に取り掛かってくれ」  私は「はい、了解しました」と返事をして、立ち上がった。執務室を出ようとドアノブに手を伸ばしたとき、王子が呼び止めた。 「君も一度、地球へ留学に行ってみるといい。家族も一緒にな」  私は振り返って、頭を下げてから言った。 「機会を頂けるなら、是非」 (了)
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