冴香と優花の場合

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冴香と優花の場合

へー、そんなに大変だったんだ…相手が〆切直前の秋ちゃんならまあ、考えられなくもないかな〜 「もう、昨日本当に大変だったんですけど…お二人が嘘がつけないのは知ってますが、もう少し何か巧い手を考えないとですねー?」 私の髪を丁寧に梳りながら描さんがボヤいてる 夕食の時間まで秋ちゃんに捕まって、ギターを弾くハメになってたからなー ちょっと申し訳なかったかも 「美優ちゃん、そこもう少し短めでそっちは…あ、違った、そこもだ、毛先をこうクルンと…」 私の量の多い髪を梳きながら、時折響く鋏の金属音が耳に心地良くて思わず眠ってしまいそう… 隣では優花ちゃんが美優ちゃんに細かく注文をつけているが、鋏と櫛では毛先を外ハネに出来ないと私は思うのですが… その辺は所謂お嬢様育ちな優花ちゃんだから、何度か美優ちゃんに諭されてるけど 本人曰く朝の髪のセットが簡単になる、絶妙な長さかなにかがあるのだろう しかしながら 南の島に移住して来てはじめて知りましたよ、描さんがこんなに器用だなんて!三十年近い付き合いなのに… ベテラン美容師さん並みに手際よく、且つ綺麗にしてくれるとは… ま、まあ、もっと意外なのは美優ちゃんだけど 「ところでどうして美優ちゃんなの?あたしだって猫さんにカットしてほしいんですけどぉ?」 あ、優花ちゃんが気付いた… こちらを向いてクレームの嵐だ 猫さんを独り占めし過ぎだとか、猫さんにカットしてほしいとか、猫さんのお嫁さんになりたいとか、猫さんと二人っきりで暮らしたいとか… …優花ちゃん、気持ちはわからなくないけど、取り敢えず家事全般出来るようになる事とゴミの分別を覚えようか… ほら、美優ちゃんもカットの手が止まって困ってるじゃない… 「はい、冴香さん、後ろとサイドはこんな感じですけど大丈夫ですか?あと前髪は目と眉の間くらいの長さで、あ、それから髪の量が増えてたから、適当に梳いておきましたよ?」 描さんが笑いながら私に合わせ鏡で確認してくれている 「あ、トップもちょっとだけ切りましたし」 これシイちゃんも言ってたけど、描さんにカットしてもらうと凄く頭が軽くなった気がする 「じゃあ美優ちゃん、選手交代しましょうか、優花ちゃんもご希望のようだし」 描さんが私の髪をシートからはたいて、シャンプー台…湯槽とも言う…そちらに誘ってくれる あん、シャンプーも描さんで… 私の不満が顔に出ていたのだろう、美優ちゃんがすまなさそうに仮設シャンプー台の私に謝りながらも、丁寧にブラッシングしてからシャワーのお湯をかけてくれた いつもながらに絶妙なお湯加減に水流、シャンプーだ あ、別に美優ちゃんは悪くないのよ?ただ優花ちゃんが別の日だったらねぇ…最後の仕上げまで描さんがやってくれるんだけど 「冴香さん!聞き捨てならない事を今言いましたよね?あたしですか?あたしがお邪魔虫だと、そう仰りたいんですか!」 え?そんなこと微塵も思ってないわよ? 「はあ〜?あたしの耳にはしっかりはっきりと冴香さんの愚痴が聞こえて来たんですけど?」 あ、つい本音が口をついて出ちゃってたか… 「冴香さん…痒いところないですか…?」 シャンプーしてくれている美優ちゃんが必死に笑いを堪えているのが、タオル越しにもわかる…
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