前兆

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前兆

「あんぎゃー!!…ネコ!ネコ!ちょっと手伝ってほしい事があるんだけどぉ!」 冴香さんのゴミの分別と並びつつある?〆切の近い秋さんの甘えの混じった叫びが遠ざかって行く… パパぁ、返事しなくて大丈夫なのぉ? ここは春の雨が続く南の島、たぶんこの雨が止む頃には海開きが出来るだろう 「大丈夫でしょ、子供じゃないんですから」 パパは…まあいつもの通り、どこ吹く風、だ いや、後々被害が来るのはウチらにも来るんだけど… 「ししょー、あたしも返事ぐらいする方が良いと思うっすよ~?」 ウチの隣に座ったハルさんも同意見だ 「冴香さんと優花さんが何とかしてくれませんかね…?」 パパはいつも楽天的…ウチとハルさんが雇われて以来、このパターンで穏便に収まった事は…少なくともウチの記憶にはない 因みにハルさんの真後ろにいる美優ちゃんはひたすら「きっと大丈夫きっと大丈夫…」そう呪文のように唱えている 「美優ちゃんもそう思うんっすか〜?あたしはヤバい気がして仕方ないっすよ~…あ、あたしは毛先を揃えてもらえたら大丈夫っすよ~?前髪もテキトーに分けるっすから、分け目をちょっとだけ切ってくれればオッケーっす!」 ハルさんが自身の左に移動した、美優ちゃんに同意を求めている…同時にヘアカットのリクエストも 「はあ、まぁ、秋さんのお手伝いするには、ハルさんとシイさんの現状を何とかしないと…ですよね?」 そうなのだ ウチ達二人はお風呂場の椅子に座り、頭以外をすっぽりとライトグレーの布で被われた、等身大のてるてる坊主になっている まあ、要するにヘアカットしてもらってるだけなんだけど 本島に一軒だけある美容室はいつも混んでるし高いし、カットだけで福沢諭吉一枚なんてボッタクリ以外の何物でもないし、おまけに下手だし! あ、ウチと優花ちゃんはショートだからまだマシな方で、ロングの秋さんと美優ちゃんとハルさん、セミロングの冴香さんは大変らしい で、だ 一番手先が器用なパパと、元看護士で入院患者さんのヘアカットもしていた美優ちゃんが、カフェならぬヘアサロン美宙を開店してくれているわけだ このヘアサロン、シャンプーも顔剃りもない本当のヘアカット専門店なんだけど、ウチ達が持ち込むヘアカタログに限りなく近い状態に仕上げてくれるので評判は良い 元々はパパ一人でどうにかする予定だったらしいけど、三人なら兎も角ウチ達が加わっては、ほぼ週イチでオープンしてもらって誰かしらで丸半日潰れるから、と言う理由で経験者?な美優ちゃんが手を挙げてくれた、そう言う理由だ うーん、美優ちゃん、いくら元担当の患者さんだからって…パパに惚れ込みきってるなあ… あ、パパ?ウチは前髪分けるからあんまり切ってほしくないかな〜?あ、サイドは毛先を揃えてくれたら… 「ダメですよ、二人共。髪の量が思ってた以上に増えてるので、ちょっとだけ梳きますから!美優ちゃん、ハルはすぐ手入れサボるから念入りにお願いしますね!」 う…パパには色々と見透かされてる… でも、優しいその手付きと時々聞こえて来る鋏の音に、髪だけじゃなく心まで軽くなって来るような気がするのはウチだけ?
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