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プロローグ
最初に異変に気づいたファンは誰だったのか、今ではもうわからない。
如月奏といえば、若者を中心に熱狂的な人気を誇る男性歌手だった。初めは動画サイトの投稿で、自作の曲をボーカロイドに歌わせて発表していたが、そのうちに姿はシルエットのようにしか現れないが、自身が歌うようになってからは、再生数が次第に伸びていった。
甘いようでいて、時折突き抜けるかのような力強さを持った声は、SNSを通じて広がった。透き通った高音域と響く低音域の幅広さに、たしかな歌唱力が加われば、作詞作曲も手掛ける才能と相まって、多くの人を魅了した。
恥ずかしい、との本人の意向で、姿をあまり見せなかったのも、ミステリアスという言葉に変換されて魅力のひとつとなっていった。メジャーデビューしてからは、ジャケット写真などでそのシルエット姿を見せ、女性ファンの間で大きな話題にもなった。痩せ型の長身で、長い手足であることは、人気に拍車をかけた。初ライヴがコンサートホールで決定したときは即日完売となり、その姿を見ようとした観客と、チケットを買えなくても少しでも見られるのではと淡い期待を抱いた多くのファンでごった返した。結局はスモークとライトの演出で、ほぼシルエットしか確認できなかったのだが。
時折昔ながらの動画サイトのアカウントでラジオ配信もあり、新曲の発表や近況を伝える雑談なども人気があった。歌っているときの声とはまた違って、はにかんだような笑い声には周りを癒やす響きがあった。予め募集していたファンからの質問に受け答えるときには、真面目で実直な性格が伝わり、それも多くの人を惹きつけた。
時折近況や宣伝などを更新していたSNS公式アカウントが、新たな情報を出さなくなったことがきっかけだっただろうか。4日間何も更新しなかったことは初めてのことであり、彼の体調を心配したファンは最後の投稿へのリプライで気遣うコメントを次々と寄せた。
だが、何も反応がない。
更新しない日数がただ無為に増えていく。
彼の所属する運営側も連絡がとれずにあわてていることが報道を通じて伝わると、ファンの間では驚きと心配が広がったが、一向に進展を見せない苛立ちから、その感情は怒りや嘆きへと変わっていった。
予定されていた主題歌への損害賠償請求とか、彼の友人も連絡がとれなくなっているとか、如月奏自身の情報がいっさい出ないまま、神隠しにでもあったかのように消えた。
本人の意志による失踪なのか、何らかの事件に巻き込まれたのか。
今、生きているのか、それとも――
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