那森はるなの告白

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那森はるなの告白

奏がいなくなって、世間が騒いでる。あれだけの人気者がいなくなったんだから、多少は仕方がない。 でも心配しないで、彼ならここにいるもの。 私はそこらのファンとは違う。彼がボカロPとして初投稿したときから知っていたし、チャンネル登録したのは私が一番だったんじゃないかしら。奏の才能を見出し、誰よりも早く魅力に気づいていた。 彼のことが知りたくて、私は忙しい仕事の合間を縫っていろいろ調べた。SNSでは裏アカウントがあるか徹底的に調べたけど、清廉潔白な彼には似合わないし、出てこなくて心底ほっとした。 ただ、奏には配信者仲間がいて、時々コラボで一緒に曲を作ったり、雑談配信にゲストで呼んだり呼ばれたりしてた。そいつの「奏を誰よりも知ってます」っていう口ぶりには本当に嫌気がさしてたけど、奏の友達みたいだから我慢してチェックしてた。 ある時、そいつは友達とバーベキューしてるっていう写真をアップした。そいつは元々顔出ししてたからどうでもよかったけど、何となくスクショした私の直感は正しかった。すぐに消したから、その画像を見てる人はかなり少なかったと思う。 写ってたら困るものが写ってたから消したんじゃない? 私は念入りにスクショを見直した。画像検索をかけて、遠くの風景とかでその場所の特定をして、そこに写ってた人をひとりひとり脳裏に焼き付けながら、その場所に急いだ。電車とタクシーで2時間くらいの場所だった。まだいるかもしれない。もしかしたら、そこに奏がいるんじゃないの、ってわかったから。 そいつがメインで写っていて、他の人達はかなりぼやけていたけど、背格好で何となく奏のシルエットに近い人がいた。私が見間違えるわけがない。 結局、そこのバーベキュー場では会えなかったけど、私と生活圏が似てるかもしれないことは私を勇気づけた。 強い願いは神様も聞き入れてくれる、って信じてた。そいつが誰かもうひとりを連れてコンビニに入る姿を偶然見かけた。連れてる誰かのシルエットを見間違えるわけがない。そこからは早かった。私はついに奏の住むマンションを突き止めた。 最初は遠くから見つめてるだけでしあわせだったんだけど、奏が私じゃない誰かに話しかけたり笑いかけたりしてるのが、どうしてもつらかった。 私だけのものにしたかった。 自分が麻酔科医という仕事を選んだことを誇りに思う。もちろん劇薬は厳重に管理されてて簡単には持ち出せない。でも、彼と私のためだから、何とかした。 働き始めてから全然使ってなかった有給を一気に取得して、彼とのしあわせな生活が始まった。彼は人違いだって言うけど、私が見間違えるわけがない。 まだ時間がかかるだろうけど、きっと私たち打ち解けあってわかりあえる。 邪魔だったあの配信者もついでに片づけた。清々した。これで彼を一番知ってるのは私だ、って胸を張って言える。 愛してるよ、奏。
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