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セッション
訪れたのは、Tabernaという飲食店だ。
今日の夜は“臨時休業”にするらしく、お客さんは誰もいなかった。
「颯斗〜!!久しぶり〜」
オーナーが颯斗の肩を叩いて、嬉しそうに声を掛ける。
久しぶりの再会を喜ぶ颯斗とオーナー。
その横に立つ知紗に、オーナーの視線が向けられる。
「村上知紗さん。前に言ってた、河川敷でよく会う人」
颯斗は、簡潔にオーナーに知紗を紹介する。
「初めまして、村上知紗です。今日は颯斗さんからお誘いを頂きまして、お邪魔させて頂きます」
「今日は楽しんでね。俺は調理専門だけど」
知紗の言葉に、オーナーは笑って答える。
案内されたのは1階の店舗ではなく、2階だった。
そこはアイランドキッチンが設置されたワンフロア。
「特別なお客さんの時の為に用意しているんだ。基本的に、一人でお店を回してるから、2階はあまり使わないけどね」
オーナーは、人懐っこい顔でそう告げた。
◇◇◇◇◇
今日の参加者は、颯斗とその友達の遠野 周さん。
そして楽器は演奏しないけど、場所と料理の提供をするオーナー。
遠野さんの彼女の遠山 美鳥さん。
そして私の5人だ。
実際楽器を扱うのは、颯斗と周の二人で、知紗は美鳥と四人がけのテーブルにつく。
颯斗と周、そしてオーナーは高校の時の同級生らしい。
周は吹奏楽部に所属はしていなかったらしいが、実家の家業が楽器店らしい。
その事がきっかけで話すようになって、未だに仲良くしているようだ。
そうしているうちに、二人は楽器のセッティングを終える。
颯斗はアルトサックス。
そして周はトランペットだ。
二人は言い訳のように「下手の横好きだから、失敗しても責めないように」と笑う。
ジャズのスタンダード曲が奏でられる。
「聞き覚えのある曲だよね、なんて曲かな?」
美鳥がコソッと知紗に聞いてくる。
「これ、多分…A列車で行こうかな?」
美鳥の砕けた口調に、知紗も同じ様に話す。
人懐っこい美鳥に、知紗も親しみを覚えた。
美鳥は周の恋人らしい。
たまに視線が合うと、二人は優しげに微笑み合う。
そして颯斗と周は幾つもの曲を奏でる。
時折失敗したら『あっ』って、“失敗した“と分かる表情をし、その相棒は“やらかしたな“と笑うような表情をする。
「ふふっ。仲良しね、二人」
「そうですね、楽しそう」
知紗も美鳥と楽しく会話をしながら、演奏を楽しんで聴く。
そんな中、オーナーがソーセージの盛り合わせやピザ、ドライフルーツ等を並べていく。
「奴らが気が済んだらしっかりした食事を出すから、軽めにね」
そしてアルコール。
「今日は、スパークリングワイン。奴らはペリエ」
2人とも車で来ているから、ノンアルコールらしい。
知紗は、颯斗が飲まないならアルコールは遠慮しようと思った。
しかし演奏の合間に、颯斗に「せっかくだから美鳥さんに付き合って、楽しく飲んで」と言われ、それならばと飲む事にした。
アルコールが入ると、更に美鳥との会話は楽しく、又、颯斗と周の演奏を聴き、二人のやり取りも見て楽しんだ。
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