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河川敷で
そこは『リンちゃん』の散歩コースだった。
我が家の愛犬リンちゃんは、足が短めでちょっとぽっちゃり気味のコーギーだ。
母が激甘で、ついついオヤツをあげてしまうのだ。
だから娘の私、村上知紗が夕方になると散歩させている。
自宅から徒歩五分の所に、大きな川が流れている。
その川の横は河川敷が整備されていて、ウォーキングやランニングをする人がよく使っている。
リンちゃんと散歩をしていると、何やら楽器の音色が聞こえてきた。
近くに、楽器を演奏している人はいなかった。
しかし目を凝らしてみると、かなり遠くに人影があった。
かなりの距離があるのに、こんなにも音色が近くに聞こえるなんて。
きっと風向きのせいかもしれない。
「綺麗な音色だね〜、リンちゃん。風に乗って聞こえてくるなんて…」
足元でトコトコ歩くリンちゃんに話しかけると、リンちゃんはこちらを見上げた。
「まるで…風が歌っているみたい…」
何か課題の練習でもしているのか、聞き覚えのある曲の一部が繰り返し演奏される。
歩みを進めると、ヒョロっと背の高い男性がアルトサックスを奏でていた。
聞き覚えのある、でもタイトルが分からない曲。
「こんにちは」
通り過ぎる時に挨拶をする。
すると短髪の男性は、演奏を奏でながらペコリと頭を下げた。
この日から、時折この光景が見られるようになった。
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