車内にて

1/1
前へ
/5ページ
次へ

車内にて

土曜日の夕方、二人は何時もの河川敷ではなく最寄りの駅前で待ち合わせた。 SUV車で現れた颯斗は、河川敷で会う時とは違い、髪もセットされ服もいつもとは違うテイストだ。 いつもの颯斗は、ゆったりめのシャツやニット、そしてボトムスもゆったりとした物を着用していた。 しかし今日は、ネイビーのカーディガンにライトブルーのノーカラーシャツ、白のチノパンというスタイルだ。 いつもより細身のスタイルは、違う印象を与えた。 そして知紗もまた、お散歩の時とは違い、ピンクベージュのトップスにオフホワイトのシフォンスカートと、キレイめスタイルだ。 車に乗り込んで出発すると、信号待ちのタイミングで颯斗は知紗をジッと見つめた。 「いつもと印象が違うね。…何か…、綺麗で…照れる…」 そう言う颯斗こそ、知紗としては印象が違う。 「颯斗さんも…、いつもと違いますよ?…何か…いつもより…」 そこで知紗は言葉を止めた。 そのタイミングで信号が変わり、颯斗と視線が離れた。 しかし会話は続く。 「あれ?続きは?…ちょっと期待したのに…、褒められるの」 颯斗は笑いながら、知紗に言う。 半分からかい気味に言う言葉に、知紗は照れる。 「…からかってるでしょ?…もう!…何か恥ずかしくなってきた…」 知紗が言おうとしていた言葉が、颯斗にはわかっているのだ。 カッコイイと。 社交辞令として気軽に言えば良かったのに、言い淀んだ結果、真実味を帯びてしまった。 顔を赤くする知紗を、颯斗はチラッと見て、また視線を前にやる。 視線は前に向けたまま、颯斗の大きな手が知紗の頬に触れた。 「…熱っ、…可愛い。知紗さん、結構照れ屋だよね」 別にそうでも無いが、颯斗の前だと照れてしまうのだ。 知紗は心の中で独り言ちる。 カッコイイんだもん、仕方ないじゃない。 きっと、ちょっと不貞腐れたような照れ隠しの表情も、コチラは見ていなくても颯斗にはバレている。 「デート仕様で来たんだから、カッコイイって言ってやって?」 含み笑いをしながら、颯斗は言う。 「…カッコイイと思ってますよ。」 そう言うように促され、知紗は本心を照れながら口にする。 そんな知紗を、颯斗はチラッと見て微笑んだ。 「ありがとう、嬉しいよ。」 本当に嬉しそうで、知紗は再び照れてしまうのだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加