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車内にて
土曜日の夕方、二人は何時もの河川敷ではなく最寄りの駅前で待ち合わせた。
SUV車で現れた颯斗は、河川敷で会う時とは違い、髪もセットされ服もいつもとは違うテイストだ。
いつもの颯斗は、ゆったりめのシャツやニット、そしてボトムスもゆったりとした物を着用していた。
しかし今日は、ネイビーのカーディガンにライトブルーのノーカラーシャツ、白のチノパンというスタイルだ。
いつもより細身のスタイルは、違う印象を与えた。
そして知紗もまた、お散歩の時とは違い、ピンクベージュのトップスにオフホワイトのシフォンスカートと、キレイめスタイルだ。
車に乗り込んで出発すると、信号待ちのタイミングで颯斗は知紗をジッと見つめた。
「いつもと印象が違うね。…何か…、綺麗で…照れる…」
そう言う颯斗こそ、知紗としては印象が違う。
「颯斗さんも…、いつもと違いますよ?…何か…いつもより…」
そこで知紗は言葉を止めた。
そのタイミングで信号が変わり、颯斗と視線が離れた。
しかし会話は続く。
「あれ?続きは?…ちょっと期待したのに…、褒められるの」
颯斗は笑いながら、知紗に言う。
半分からかい気味に言う言葉に、知紗は照れる。
「…からかってるでしょ?…もう!…何か恥ずかしくなってきた…」
知紗が言おうとしていた言葉が、颯斗にはわかっているのだ。
カッコイイと。
社交辞令として気軽に言えば良かったのに、言い淀んだ結果、真実味を帯びてしまった。
顔を赤くする知紗を、颯斗はチラッと見て、また視線を前にやる。
視線は前に向けたまま、颯斗の大きな手が知紗の頬に触れた。
「…熱っ、…可愛い。知紗さん、結構照れ屋だよね」
別にそうでも無いが、颯斗の前だと照れてしまうのだ。
知紗は心の中で独り言ちる。
カッコイイんだもん、仕方ないじゃない。
きっと、ちょっと不貞腐れたような照れ隠しの表情も、コチラは見ていなくても颯斗にはバレている。
「デート仕様で来たんだから、カッコイイって言ってやって?」
含み笑いをしながら、颯斗は言う。
「…カッコイイと思ってますよ。」
そう言うように促され、知紗は本心を照れながら口にする。
そんな知紗を、颯斗はチラッと見て微笑んだ。
「ありがとう、嬉しいよ。」
本当に嬉しそうで、知紗は再び照れてしまうのだった。
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