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世界の片隅の片隅に生息中
私、常盤莉羅はフリーターだ。
「じゃあ、りらちゃん。お先に失礼するわね」
「はい。お疲れ様ですっ」
そう言ってパートの菊花さんは、崩れてしまって売り物にならないプリンを持ってお店を後にした。
二児の母でもある菊花さんは、これから家族の夕飯を買うのだそう。
1人気ままに暮らす私とは違って大変だろうな。
さぁ、私も閉店まで頑張らないと。
「いらっしゃいませ~」
ここは駅ビルの食品フロアにある洋菓子店、ふわぷる堂。
私は定職にも就かず、未だに短大生の頃に始めたこのアルバイトで生活をしている、先々月の3月に誕生日を迎えた21歳だ。
そんな私の夢は、ファッションデザイナー……だった。
うん。“だった”のだ——
高校生の頃から服飾科に通っていた私は、縫製作業こそ遅かったけれど、持ち前の絵心でスタイル画やファッション画なるものは全部得意だった。
勉強を頑張って来なかった私の成績表でも最高ランクSがついたし、先生も友達もクラスメイトも私の作品をたくさん褒めてくれた。
だから自信があったんだ。
でも現実はそんなに甘いはずがなく、通っている学校の成績が良かっただけ。
私の就職先なんて全く無かった。全敗だった。
そもそも殆どの職場では即戦力が欲しいみたいで、経験が必要らしい。
自惚れていた私は、就活を始めた時になってようやくその事実を知ったのだ。今思い出すと、ただただ恥ずかしい。
それに、デザイナーになった高校の先輩も言っていた。
デザイナーになるためにはコネが必要だ。だからアパレルはアパレルでも、
「まず販売から……」
そこで頑張っていれば上の人に気に入ってもらえる。そうすると、その伝手でデザイナーへ夢の扉が開くのだって。
あ。もちろん先輩は私とは違って、そのチャンスから夢を叶えられるくらい努力を積んだ人だった。海外にも留学していたし。
だから夢を頭の中だけで描いていた私は、現状にプラスアルファその話を思い出して、あ無理だと思った。
私は全く夢を追っていなかったのだと気付いた。
せめて一念発起して、アパレル販売員を目指せば良かったのかもしれないけれど、陰キャな私が販売員なんて……しかもアパレルの表舞台だなんてキラキラ過ぎて、容姿に自信がない自分では絶対無理だと思った。
じゃあ何で私が駅ビルで販売員のアルバイトをやっているのか。
それは他の職業になるためのスキルが無かったのと、消去法からだ。
パソコン出来ない。
医療・保育士資格ない。
介護は命を預かるから怖い。
エンジニアって何ですか?
力仕事は足手まとい。
美容師免許ない。
普通免許もない。
コンビニは頭の回転の良さと素早さが必要そうだし、スーパーのレジはコミュ力とかも必要そう。それにパートのおばさん達の派閥がありそうで、巻き込まれたくないって思った。
そんな調子で自分を篩にかけたり選りすぐったりして辿り着いたのが、今のアルバイトだ。
結局販売員をしているのだけれど、正直面接に行くのも吐きそうだったし、受かるとも思っていなかったわけで。
でもとくかく全力で働いてみれば、こんな私でもなんとかなるものだ。
まだ人がまばらな時間帯から勇気を振り絞って声出しをしていれば、お客様との会話は臆せず済んだし、突然火が付いたように忙しくなるから、こっちのスキルがどうのこうのだなんて話じゃ無くなる。
だって急がないといけない状況でも、店頭には私しか居ないのだ。
だからお客様を少しでも待たせないために、出来るだけ早く対応したり。
でもまた来たいなって思ってもらえるように、お客様にも商品にも丁寧に接したり。
何が何でも心を込めた。
そういう場数を踏んで、お菓子作りの仕上げ作業をしつつも注文からレジ、袋詰め・ギフト包装は、必死に取り組めば1人でもなんとかこなせるようになった。
心配だった人間関係も、杞憂だったようで問題なかった。お店が小規模だからか従業員は私を入れて4人と少ないし。
店長・社員さん・パートさん・私。
だから1日に顔を合わせるのは、多くても3人。派閥なんて発生しないし、それどころか当のパートの菊花さんは、こんな小娘の私に対しても気さくにお喋りしてくれる、とてもいい人だったのである。
けどこうしてこのまま、このアルバイトを続けていてもいいのかなぁ。
いつまでもフリーターしていないで、骨を埋める覚悟でやっぱり社員登録をさせてもらうべきなのかなぁ。
はぁぁ。これから私、どうなるんだろう……。
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