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「君があんまり切なそうだから、警察に聞いてやったよ」 「そうだ! その手があった。マリアの家がわかったのか?」 ガスパロの両肩を揺さぶる勢いで迫る。 「いや、マリアって名前だけでわかるわけないだろ。カルロが刺された場所だよ」 「ああ──なら今から行こう」 「え?」 ガスパロの腕を引き、馬車に乗り込む。 マテオは人気歌手にありがちな傲慢さも放埒さもなく、非常に温厚で物静かだ。 だからガスパロは驚かされた。 「全く恋は怖い」 ガスパロの呟きも熱に浮かされたマテオの耳を擦り抜ける。 気持ちは御者と同化して、驚くほどの速さで到着した。 「さあ、着いた。もう仕方ないからとことんお前の目になってやるよ」 マテオは暴漢に襲われた場所に降り立った。すぐに違和感が生じて、前後左右に顔を巡らせる。 「そうか。今は昼だから」 「昼と夜とで何が違う?」 「風だ。匂いや音も。先日はもっと湿っていた」 「へえ。それよりここからどっちに進めばいいか分かるか?」 マテオは鼻を蠢かし、耳に神経を集中させた。 「こっちか……」 ガスパロの手を借り、嗅覚と聴覚を頼りに進む。 だが暫くして限界を悟り、足を止めて息を吐いた。 「この先どっちに進んでいいのか」 「仕方ないさ。今日は諦めて、明日も探してみたらどうだ?」 ガスパロの提案にマテオは顔を上げた。気持ちは半々で揺らいでいた。 手がかりが一日ごとに薄らぐ、とはいえ、これ以上歩いても徒労に終わる可能性が高いからだ。 その時、鐘が響いた。
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