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すすり泣く声。温かい手が額に置かれる。マテオは暗い海で溺れながら、その手を掴み何度も浮上した。再び沈んでいくと歌が聞こえてきた。
優しい声。
『Sul mare luccica L’astro d’argento(海の上に輝く銀色の星)──Santa Lucia, Santa Lucia──』
「サンタ……ルチア……」
力無い声でマテオも歌う。
「マテオ……マテオ」
とつぜん暗い海に光が降り注いだ。天使がマテオの手を掴む。その温もりに励まされ声を発した。
「マリア……私の天使」
「マテオ……良かった。意識が戻ったわ。ガスパロ」
マリアの隣にはガスパロがいた。徐々に意識がはっきりしてくる。
「本当に奇跡だ」
ガスパロが涙をすする。
「死んだと思った。公爵夫人の?」
「いや、むしろ夫人のおかげで助かったんだ。侍女が悲鳴を上げて──殺し屋はモデナ公の仕業だろう」
「そうか……」
今後を考えると気が重くなる。
「まあ、助かったんだから。公爵夫人も君を諦めるだろうし、モデナ公が君を狙う理由はなくなる。一石二鳥だ」
ガスパロが慰める。
「マリア、君の歌が救ってくれた」
「奇跡は貴方自身の力で起こしたのよ。もう一つの奇跡もね」
「もう一つ?」
マテオが首を傾げる。
「子どもを授かったの。神に誓って貴方の子よ。きっと名前がマリアだからかしら」
マリアが微笑む。
「おお! 神よ。 マリアという名に感謝します」
マテオが胸の前で手を組む。鐘の音が祝福するように響き渡る。
残響か。神の歌なのか。鐘の音はしばらく鳴り止まなかった。
了
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