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「金目の物を寄越せ。命が惜しかったらな」 凶暴な息遣いに囲まれる。 腋下を伝う汗と固い地面で辛うじて理性は保たれていた。 人中を上る血の匂いを嗅ぎ、カルロの死を悟る。 「今はさほど手持ちは……どうかこれで……」 刺繍が施された華美なウエストコートの内側から取り出したそれは、純金のロザリオだった。 信心は薄い。神より力となるのは金というくらいは世間を知っている。 発した声は自分でも驚くほど冷えていた。 加えて指輪を二つ外して差し出す。 「お前は女か?」 暴漢の声が変化した。鼓動が早まる。 耳上でカールした白髪の(パルッカ)、白粉に紅い唇。首周りにはレースのジャポ、白絹の靴下に宝石で飾られた金のミュール。マテオは二十歳で容姿は女性的だが、十八世紀頃の男性の装いは老いも若きもこのようなものだった。 「あ……」 いきなりシャツの上から胸をまさぐられ、よろめいた。歪な視線が全身を這い回る。 盲目こそ幸い、とはいえない。見えないからこそ感受性が鋭く磨かれてきた。 「背が高過ぎる。身体つきが女じゃねえ」 「でも声が変だ。子供みてえな高い声をしてる」 不躾な言葉を放ち悪気なく刺す者はマテオが暮らす世界にもいる。違いがあるとすれば絹越しか、直接かだけだ。
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