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「……玄関、開けたら……向かいの人が……道路に立ってて……どこに行くんだって……」
「はっ? ……マジで?」
「本当だよ……何なの……もう、無理だよ……こんな……」
呼吸が乱れてきて、上手く息が吸えなくなる。会社を辞める直前に、繰り返し起こした過呼吸になりそうで体がぞわぞわした。
それを悟った美里がいつになく真剣な口調で、
「……お姉ちゃん、落ち着いて。ゆっくり深呼吸して。――一度、そこから離れたほうがいいよ。……多分、心配してくれてるんだろうけど……だとしても、やりすぎだよ」
「う……うん……そ、そうだよね……」
「朝になってからだと人目につきやすいから……暗いうちに、そこを出な。でも、安全運転でね。事故起こしちゃったら大変だから」
「わかった……」
「村を出て、スマホが使えるようになったら連絡して。あたし、友だちに車出してもらってそこまで行くから」
千里は泣き出したくなるのを堪えて、ただただ頷いた。
家じゅうの明かりを消し、小さなバッグに貴重品だけ詰め込んだ。
息を潜めてひたすら時間が過ぎるのを待ち……午前2時になった。
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