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あの、奇妙な音も今はもう聞こえない。張りつめたような静寂の中、千里はそっと外へ出た。寒いくらいに冷えた風だったが、緊張で強張った体には温度も感じられなかった。
砂利敷きの駐車スペースに停めた軽自動車に乗り込み、出来る限り静かにドアを閉める。
深呼吸して、エンジンをかけた。
――一つハードルをクリアできた気がして、僅かに気持ちが楽になる。
そして慎重に駐車スペースから車を出した。
月のない夜道は街灯もまばらで、脱輪しないようにゆっくりと走るしかない。
「神様……お願いします……」
無神論者なのに、こんなときにすがってしまうのは虫がいいと思いつつも祈ってしまう。
スピードを出していないのに、エンジンの音が村中に響きそうに大きく聞こえる。
前後左右に視線を飛ばしながら、暗闇をヘッドライトで照らして走る。
そのとき――バックミラーに、見たくないものを見つけてしまった。
走って、追いかけてきている人影。
……一人……いや、二人……もっと。
「嘘……嘘でしょ……」
ぐんとアクセルを踏みそうになるが、慣れない夜道でスピードを出すのも怖い。
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