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前と後ろを交互に見ながら、ハンドルに体を押し付けつつ、前のめりで走る。
村人は高齢者ばかりのはずなのに、どんどん距離を詰めて来る。
それでも、このまま走り続ければ、体力的に振り切れるに決まっている。
口々に何か叫んでいるのが車内にも響いてくるが、何を言っているのかまではわからない。それに耳を澄ます余裕もなかった。
「もう少し……もう少しで、橋が……」
その橋を渡れば、トンネルがあって、そこを抜ければ――。
――橋が視界に入って……千里は急ブレーキを踏んだ。
車体が悲鳴を上げて、橋の直前で停車する。
……橋は、川の濁流にさらされていた。
低い欄干が、増水した川面に沈んでしまっている。
千里は呆然と、フロントガラスの向こうのその光景を見つめるしかなかった。
――やがて、視線を横に向けると、窓越しに車を取り囲んだ村人の姿が見えた。
何かを叫んで、顔を歪めている。
千里はすべてを諦め、青ざめた顔で窓ガラスを下した。
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