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色褪せたツナギに、首にはタオルを巻いている。
「大丈夫です。――ほんとに、綺麗な村ですよね。ゴミもほとんど落ちてない」
「いんやぁ、千里ちゃんにいいところ見せたくて、千里ちゃんが来る前に総出で掃除したんだぁ」
笑いながらそんなことを言う。この歓迎ムードが、ひび割れた千里の心を潤してくれる。
「え、えへへ、そう言ってもらえると、私の掃除にも力が入っちゃいますよ。――あ、あそこに紙ゴミが……」
坂を登った先に、かさかさに乾いた紙ゴミが見えた。
それを拾おうと坂に向かったとき、
「そっちは駄目だ!」
まるで、川に落ちた帽子を拾おうとした子供を制止するような――鋭く、尖った声が千里の背中を打った。
それは前職の上司の怒鳴り声を連想させ、千里は身を縮めた。
恐る恐る振り返ると、おじいさんはどこか「しまった」というような顔をして、
「まだ、教わってなかったか? ……ほれ、この先は……」
おじいさんの視線の先――生い茂った木の奥に、何か、神社のような建物が見える。
「……あの社には、近づいちゃならねぇ。これからは、気をつけれな」
千里は後ずさって、その建物を見上げた。――一体何の建物なのか……とても、尋ねることはできなかった。
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