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「どうして……?」
歯ブラシを咥えたまま呟く。
あの建物が何だと言うのだろう。例えば倒壊しそうで危ないとか……? それとも……。
頭に思い浮かびそうになった不吉なイメージを振り払って、千里は苦笑いした。
「まぁ、いいか……別に、あそこに近づかなくても暮らしていけるし……」
そうは言いながら、胃のあたりに引っ掛かるものがあることも事実だった。
うがいしていたとき、電話機がけたたましい音で鳴った。
居間に走って行って、受話器を持ち上げる。
「今日はどうだったー?」
のんびりした美里の声に、ほっとする。
「うーん……進展なしかな」
「そぉかぁ……」
何かをパリパリと食べながら、美里が呟く。
電話の前に腰を下ろしたとき、部屋の空気が揺れるのを感じた。
千里が住む元空き家の中古住宅は、水回りはリフォームされているが、建物自体は相当年季が入っている。隙間風がどこからともなく吹き込むような建付けだ。
冬場はこの隙間風が寒そうだなと思ったときだった。
遠くから、細く……弱く、唸り声のような音が聞こえて来た。
はっとして、千里は動きを止めた。
「……何……? この、音……」
「えー? ポテチだよー、のりしお」
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