おじさんは劣等生だった

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おじさんは劣等生だった

   小杉優作という名が、おじさんの本名です。  大昔の、おじさんが小学校4年生の時の優作は、4月1日のエイプリルフールの日を待ち望み、狙っていました。    優作が育った地域は、15軒くらいの民家が固まっては居たが、周りは田圃や茶畑や果樹園等が広がり、牧草地帯も続く、山の麓に位置する田舎の風景だったと、おじさんは郷愁を漂わせるように、語りました。  その地域には、優作と同級生で同じクラスの聡史くんと里美ちゃんが住んでいて、優作の家前の道路を隔てた農家が、一級下に当たる小学3年生のヒロの家だった。  聡史君の家は、田んぼや畑は所有していたが、お父さんが鉄道会社に勤めている兼業農家でした。  里美ちゃんの家は、お母さんが小学校の教師だという事は解っていたが、優作おじさんは、里美ちゃんの お父さんの姿を、観た事は無かったと言っています。  ヒロの家は、広大な茶畑や果樹園、田畑を持つ、完全な専業農家。  優作の家は、こじんまりとした牧草地に牛を放牧している畜産農家だった。  優作と聡史君と里美ちゃんとヒロは、2.5㎞先に在る小学校に毎日一緒に通う仲良しだった。  ヒロの家の前の広場で4人で缶蹴りをして遊んだり、広大な茶畑でかくれんぼをしたり、ヒロの家の中で大富豪ゲームをしたり、森に昆虫を捕りに行ったり、草原の川で釣りをしたり。  春にはヨモギを集め、夏の終わりには アケビを食べに、秋には山ぶどうを味わい、冬には椿の密を啜り合い楽しんだ、4人一緒の時が多かったが、時々優作とヒロだけで遊ぶ事も在ったらしい。    遊ぶことが大好きな優作少年に取っては、4人が一緒に遊んで過ごす時間にノスタルジ的嬉しさや楽しさを感じ、何ら不満は無かったが、他に、優作だけが3人に対して、しょ気る、卑下する、挫折感を味わうような問題が在った。  それはズバリ、学力の差だった! 優作だけが大きく取り残されていた。  おじさんは、空しい顔で言った。 「僕だけが、極端にバカだったんだよ…… 」  おじさんの虚しい顔に私も少し空しい顔に成りましたが、私は大きな泣き声で叫びました! 「ニャァー、ニャーン!(ソンな事、ありません!)」  聡史くんと里美ちゃんは同じクラスだったので、誰に言われなくても学力の優秀さは解っていた。  算数や国語や理科や音楽、ドンナ教科のテストでも聡史くんか里美ちゃんが クラスで一番のテスト成績を取っていた。  3人で通信簿を見せ合った時、聡史くんは5が五個あって、後は4だった。  里美ちゃんは体育が3だったが、5が六個あった。  聡史くんは絵を描くのが上手で常に金賞を取っていたし、里美ちゃんはピアノが上手で、毎日の様にお母さんからレッスンを受けていた。  優作の通信簿は、1は無かったけど、3と2だけだった、と、おじさんは小さな声で教えてくれた。    聡史くんと里美ちゃんは、クラスで注目の存在だけでは無く、近所でも優等生ぶりが伝わっていて評判に成っていた。  二人に比べて、優作はクラスでも近所でも影さえない存在だった、クラスの中には優作の名前さえ知らない子もいたし、近所の叔父さんや叔母さんの間では、出来の悪い影の薄い目立たない、存在だった。  だから優作は、たった一度くらいは、聡史くんや里美ちゃんを出し抜いて、近所で注目を浴びたい。  普段、引っ込み思案で目立たない優作が、皆の脚光を浴びたいと、一世一代のウソの大芝居を実行する事を、決心した。    決行日は、大ウソを()いても許される、4月1日(エイプリルフール)の早朝だ!  優作は、この計画の実行に当たり、手下の様なヒロに協力を依頼すると、ヒロは喜んでこの作戦に協力する事を承諾した。    ヒロは優作の手下の様な存在で、どんなことにも直ぐに興味を持ち、大胆に向かって行くアホな奴だと想っていた。  優作はヒロが、自分と同じぐらい学力が低く、同じぐらいバカだと想っていたが、後に思い違いを知ることに生る。  私は、声を上げた。 「ニヤー! ニャー、ニャニ、ニャニ、ニャー(おじさん!どんな事にも興味持ち、実践して行くヒロさんは、きっと優秀よ)」
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