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第3話 推しの行方
『やっぱりおかしいよ!』
私――るなのネッ友であり、同担の「ちゃのたん」にLINEを送る。
既読がつくのに1秒もかからなかった。
どうやら私のトークルームを開いたままだったらしい。
『遅刻、これが初めてだっけ?』
『そうだよ! あの真面目なりとくんが、報告もなしに遅刻だよ。 しかも2時間たったのにいまだに始まらないよ! 絶対なんかあったよね?』
『最近、りと様調子おかしいしね。やる気なくしちゃってるのは確かだよ』
そうだ。配信もうわのそらという様子で、あからさまにおかしい。今までのみなぎるやる気が、元気さが、嘘のように消えてしまった。
『……とすると』
『引退……』
「ぎゃーーーーー!」
家中に響かないようクッションに顔をうずめて叫ぶ。
これは、引退の予兆。
悔しいが、そう考えるのが一番自然だろう。
『嫌だあああ信じたくないいい』
ちゃのたんにメッセージを送信する。
きっと彼女も同じ気持ちだろう。
私は、スマホを黒いクッションの上に放り投げた。
引退。
推しの引退だなんて、数日前まで考えてもみなかった。
今までの自分は、なんて幸せだったのだろう。
今は、そうとまで思う。
電車が大幅に遅れて学校には遅刻するし、家に帰ってもこんなんだなんて今日は、なんて日なんだろう。
私はクッションに顔をうずめた。
視界が、桃色に閉ざされた。
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