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寺家悠斗
「こんな時間に中学一年の女の子が雑居ビルの屋上で柵から身を乗り出して……穏やかじゃないねえ」
死ぬつもり?
そう言われてるようで、顔が熱くなる。
柵についていた手で持ち上げていた体を下ろす。
「……私が何をしようと、先輩には関係ないじゃないですか」
「まあ、確かにね」
今度は全身が熱くなる。
何、その言い方。
それに、態度と言葉が気になる。私の行動に慌てている訳じゃなく、表情や話し方がのんびりとしている感じが嫌。
「ま、止めないなから好きにして」
「なっ?!」
「ただ、今死ぬと大変なことになるけどね」
「……まさか、私が飛び降りるところを動画で撮影でもするつもりですか。そんなことをしたら……父と母が黙っていないと思います」
自分達にとってよくない話なら、お金や権力を使うことをお父さんとお母さんはきっと躊躇わないだろう。
「おー、怖い怖い」
「馬鹿にするつもりなら、お引き取り願えませんか」
「七頭竜芹那さん]
体が震えた。
軽いノリの話し方は変わらないけど。
その大きい目が、私の目をジッと見つめている。
それに、何で私の名前を知ってるんだろう。
まさか、ストーカー?!
「君は、日本において一年間にどれくらい行方不明者数が出ているか知っているかい?」
「……わからないです」
「だいたい、どのくらいだと思う?」
「そんなことっ……何の関係があるんですか!」
「死にゆく君に、話したいことがある。その為だ、答えて」
「…………っ!」
圧が強くなった。お父さんやお母さんとは違うけど……逆らえない。まるでそんな気分になる。
行方不明?
いきなりいなくなっちゃうことでしょ? ニュースでは『行方不明となっていた人が~』とか怖い話を見たことがあるけど……。
「300人くらい、ですか」
ふは。
寺家先輩が噴いた。
「何で笑うんですかっ!」
「ああ、ごめんごめん。わからないよねそりゃあって思って。年間で約8万人。都道府県で割ると1500人くらいだね」
「……は?」
8万人?!
都道府県で1500人!
鳥肌が立った。
でも。
私のことを引きとめようとして、嘘をついているのかもしれない。
「そんなにいる訳、ないじゃないですか!」
「本当だよ。警視庁の去年のデータを見ればわかる。見るかい?」
寺家先輩が、手に持ったスマホをひらひらと振って差し出した。
……本当だ。
怖い。
「でね、理由はいろいろある。犯罪絡みや自分の意志で雲隠れもその中に含まれる。でもね、普通の人には想像できないような理由も存在する」
「何ですか」
「多重世界。この世界と似ているけれども、異なる世界へと連れ去られてしまうのさ」
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