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多重世界と魔法少女
「た、じゅう……世界?」
先輩のペースに乗せられているのはわかっている。話し上手な感じもする。
でも一番はモヤモヤしたままで死にたくないし、私にも関わることって言われたら、あんな数字を見せられたら聞きたくもなる。
「そうそう。君は異世界もののアニメや小説を読んだことがあるかい? 異世界の神によって日本から召喚、簡単に言うと呼び出される話」
「……ない、です。でも、男子が話してるのを聞いたことはあります」
アニメが、小説がっていう話で盛り上がっていたのは覚えてる。
「それと似たようなもの。行方不明者の何%かは無理矢理に多重世界に連れてかれている」
「……は?」
「調査しているうちにわかったんだ。死んだあとの魂をふくめたら、数え切れないくらいに」
真面目に聞いていた私が馬鹿だった。
この人は適当な話で私を引き止めようとしているだけなんだろう。生徒会長ってスゴイ頭が良くって人気があるって聞いてたけど……頭の中、突き抜けてるのかもしれない。
場所を変えよう。付き合っていられない。私は今日中に死にたいんだ。
あんな家にはもう戻りたくない。
「あ、あの私……これで」
「ほら、そこにいる奴もそうだ。負の波に反応して、君を狩りにきているんだ。まあ、見えないだろうけどね」
「帰り……えっ」
先輩が指を指している方角を見る。
そこには無表情の男の人が、暗闇に紛れてぼんやりと立っていた。手に棒のようなものを持っている。
あれは……鎌?
死神?!
「いやあっ!」
「おや、見えたんだ。君は魔法少女の資質があるね。そもそも、死のうとまで思い詰めるほどの精神の力って、負の方面で登りつめてるから」
男の人が、ゆっくりと歩き始めた。
私に、向かって。
「あ、あの人に捕まったらどうなるんですか!」
「多重世界のどこかに連れて行かれる。君は新しい人生を送ることになるだろう。君にとっては渡りに舟、なのかもしれない。ただ……」
「……ただ?」
「あ、こっちに来て。あいつ等は人を狩る専用の器みたいなもので、動きは遅いんだ」
先輩に袖を掴まれて、物陰に隠れる。
「僕らが様子を見に行ったどの世界でも、連れ去られた人は悲惨でしかなかった。たまたまかもしれないけれど」
「……!」
「まあ、そんな訳で君が死ぬ前に話しておきたかったのさ。『今死ぬと、魂を捕捉されて連れてかれるよ~』って」
「語ってないで、何とかしてくださいよ! あ、とりあえずここから逃げましょう!」
私は、死にたい。
それは間違いない。
だけど。
悲惨な人生を送り続ける為に、死のうとしてる訳じゃない。そんなの嫌だ!
「逃げても、君は捕捉されてしまった。君が死ぬのを思いとどまれば消えていく。だけど君が死のうとするたびにあいつは姿を見せる」
「じゃあどうすればいいんですかっ!」
「はい、ロッド」
何これ。
おもちゃ屋で見たことのあるような……。
「僕はこの世界から人や魂を連れて行かれないように対抗する、魔法少女達の支部の管理者をしていてね。魔法少女になる為の契約もしてるんだ」
「……は?」
「君が魔法少女になって退治したら? 本当は魔法少女って契約したら年単位でしか解除できないんだけど……1日だけの限定にしてあげる」
わかった!
これ、夢だ。
絶対夢。
「流石に七頭竜財閥を相手にしたら、ウチの組織……会社も骨が折れそうだしね。はい、『インストール』」
目の前が真っ白くなった。何かが、光の渦となって頭の中に流れ込んでくる。
「完了っと。目、開けてみて」
「…………ぴょ?!」
私の格好が、制服から黒のフリフリのスカートに変わっている。そして、さっき渡された杖が立派になって浮かんでいた。
ちょっと待って!
あの男の人、鎌を振り上げてるぅ?!
「さあ、じゃあこう唱えて? 『ヘクセィラ ラナクスト』」
「へ、へくせぃら、らなくす、と?」
「フレー フレー」
「ふれー ふれー」
「あ、ごめん。それは君への応援」
この野郎っ!
引っぱたきたい……!
「あいつにロッドを向けて! 間合いに入る前に、『ブレイライ!』」
ぎゃああああ!
斬られる!
連れてかれちゃう!
「『ブレイライ!』」
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