9人が本棚に入れています
本棚に追加
『今朝、腕を切られる事件が都内の各地で、ほぼ同時刻に発生しました。被害者は皆男性の模様です。目撃者によると、急にどこからか強い風が吹いたかと思うと悲鳴が聞こえ、男性の腕がなにか鋭利な物で切られたかのようになっていたとの話です。更に警察が調査をしたところ、被害男性達はSNSにて「痴漢同盟」というグループのメンバーであることが判明しております』
結構活きが良かったのは、1人の生き霊でなかったからかと納得しつつ目の前で優雅に焼き鮭を解している葛葉へ困ったような視線を瑪且が向ける。
「葛葉さん…?これは…?」
葛葉はにっこりと破顔した。
「生き霊は、残念だけど抹消してはいけないからね」
「いや…そういうことじゃなくて…」
「腕が使えなくなる程度、命がなくなるよりやすいだろう?」
「そうですけど…そうじゃなくてですね…」
瑪且は眉間に寄せた皺を、箸を持った指で押さえる。
(だから、やりすぎなんだってば…っ)
科学の発展したこの社会で、色情霊に限らず霊退治などという非科学的なものはとても異質なのだ。そのため、できるだけこっそりと対処するというのが、陰陽師達の中で通例となっている。
真っ昼間からこんなニュースになることなんて、御法度だ。
相変わらずすることが激しいと頭を痛めていると、乙人も葛葉と瑪且用に茶を入れながら「あまり目立ったやり方をすると、また表から色々言われますよ」と瑪且の言いたいことを汲んで告げてくれた。
『表』とは『表安倍』のことである。
また会合の時に面倒だなと辟易しつつ葛葉を見やる。葛葉は首を小さく傾げて、悪いことをしたと寸分も思っていない様子で微笑んだ。
『安倍野葛葉』。ーーー『一条瑪且』の仕えるべき主。
美しく聡明で、歴代の中でも力が強く完璧な男だが、悪戯好きで唯我独尊、身内には甘いが外には容赦がない。そんな主のために、瑪且は文字通り身を捧げて色情霊を払う。それが瑪且の仕事。一生の役目だ。
心身共にきついし、色々思うところは正直ある。しかし、産まれた時から決まっており、自分ではどうにもできないし、なんだかんだ言って主に大切に扱われているのも分かるので、まぁとりあえず良しとしようと思っている。
でも、やっぱり面倒事はなるべく起こして欲しくないとも思い、楽しげに笑っている主を見ながら瑪且は深いため息をついた。
1.お仕事紹介します 終
最初のコメントを投稿しよう!