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プロローグ
―――24年前、冬。
しんしんと雪が降る中、都内の一角、木組み作りの日本家屋で、静かな空気を引き裂くかのように元気な赤ん坊の産声が轟いた。
オギャッオギャッと全身から泣き声を上げる赤子を、母や見守っていた付き人達が目の皺を深めて見つめる。その中で、家付きの助産師がまっさらなタオルで赤子の肌を丁寧に拭っていくと、不意に「あっ」と小さく声を上げた。
生まれたての赤子はおくるみに包まれ、おくるみと同じ真っ白な髪の老爺に抱かれ心地良さそうに眠っている。その姿を思春期に入りたてのまだあどけなさが残る男の子がじっと見つめた。
初等部から帰ってきたばかりのようで、まだ学ランの制服を着たままだった。
「葛葉様。ようやくお産まれになりましたよ」
「うん、みたいだね」
葛葉と呼ばれた男の子は、淡々とした口調で返し、あまり興味がないように見えた。それが彼の通常であるので、老爺は特に気にすることなく赤子のおくるみを丁寧に取っていく。老爺にしては珍しく高揚した声音で葛葉に話しかけながら赤子の腹部を彼に見せた。
「ようやく…ようやくですよ、葛葉様。10年…10年待ちました。『おんな』…しかも、男が…。これで、葛葉様の代は安泰ですよ」
老爺が示した箇所に、葛葉は視線をやる。
ぷくっとした腹の出臍の下。
小さな性器の上。
シミのない綺麗な肌にはっきりと、それは刻まれていた。
―――五芒星の痣。
「…これが、『まそ』のあかし?」
書物でなく初めて見るその印に、小さな指が優しく触れる。五芒星の形に沿って皮膚の上を滑らせるが、赤子はすうすうと眠ったままだった。
「そうですよ。これが、…この方が…葛葉様の『瑪且』です」
「…そう…。ねぇ、だっこしてみたい」
ようやく赤子に興味を持ったのか、葛葉は細い両腕を突き出して赤子を差し出すように要求する。老爺は丁寧に抱き方を教えてやり、葛葉の腕に赤子がすっぽりと納まるとその温かさと小さいながらも重い、その不思議な感覚に葛葉の瞳に光が宿った。
「…よろしくね、ぼくのまそ」
赤子の顔を見つめながら葛葉が告げると、まるでそれに答えるかのように『まそ』と呼ばれた赤子は顔を歪め大きな声で泣き出した。
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