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木々が揺れ、葉が擦れ合う音が聞こえる。ウグイスや名もわからない鳥の声も、瑪且の耳に届く。障子戸に遮られて淡くなった日差しに気付き、そっと瞼を開くと目の前に美しい造作の顔が柔らかい表情で己を見ていた。
「おはよう?まお」
葛葉が更に目尻の皺を深めて、瑪且の頬を撫でた。それがとても心地よくて、開いたはずの瞼が再び落ちそうになる。
「よく眠っていたね」
心地よい愛撫に微睡みながら周囲へ視線を向ける。夜はすっかり開けて、明るい日差しと庭に来訪する鳥達の声、暖かな温度にすっかり寝こけていたことがわかった。
『瑪且』の仕事は体力も気力もひどく削がれるので、いつも終わった後は回復のために長く寝てしまうことが多い。特に調教部屋を使った時はそれが顕著であった。しかし、歴代の『瑪且』の中には、仕事の度に体調を大きく崩す者もいた中で、今の瑪且はとてもタフだった。
「ん…、今、何時ですか?」
「…、ふふ…さっき12時を過ぎたよ」
瑪且の掠れた声に、葛葉が口元を歪める。叫ぶような喘ぎに、喉がやられてしまったようだ。労るように葛葉の指が、瑪且の喉仏を触った。
調教部屋よりもやや狭い和室の中央、一式の布団の上で瑪且と葛葉は向かい合って横たわっていた。葛葉の服装が洋服から寝巻き用の浴衣に変わっており、瑪且も自分の姿を見ると体は清められて浴衣を着用していた。
おそらく儀式が終わった後、葛葉が瑪且を清め寝巻きに着替えさせて、この布団へ横たわらせたのだと思われた。本来、当主はそこまで『瑪且』の後始末をしなくても良いのだが、葛葉はなぜか嬉々として瑪且の世話を昔からしていた。
年齢が離れているからかなと瑪且は思いつつふと己の胸元に違和感を覚えて、浴衣の前を少しはだけて中を確認した。
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