1.お仕事紹介します

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「…、…?」  そろりと目を開けると、そこにはショートヘアーの美女が立っていた。 美女はしっかりとまおを支えるとぐいっと自らの方へ引き寄せて駅員から距離を取らせる。 「…友人が迷惑かけたみたいで。迎えに来たので、もう心配されなくて大丈夫ですよ」  切れ長の瞳を細め笑んではいるが、柔らかな声音の奥に冷たさが垣間みえる。 そして、ぶつぶつと小さな声でお経のような言葉を呟くとどこから出したのか小さな形代を一枚取り出し、駅員の肩に触れさせた。  その瞬間、駅員の体から黒い靄が抜けていき、形代の中に吸い込まれていく。瘴気が全て抜けると駅員は焦点が合わずに呆けている。美女は顔を近付けて、更に「サッキノコトハ、ゼンブワスレロ」とねっとりとした低い声音で囁いた。  すると一瞬、駅員の体がぐらりと揺れるものの次の瞬間にはまお達に視線もやらず、スタスタと駅のホームを歩いていってしまった。  相変わらず術の力がすごいなとまおが感心していると急に視界がぐるりと変わって、思わず支えになりそうなところを掴む。それは美女の肩だった。  美女の顔が近くでにっこりと笑い、「さ、帰ろうか?まお」と言い、通話口よりも柔らかく、どこか企みを孕んだ楽しそうな声をかけてきた。 「ちょっ、葛葉さん…っ、降ろして、ください…っ」 「体調悪いんだから無理しちゃダメだよ?」  『葛葉』と呼ばれた美女は成人男性のまおを軽々とお姫様抱っこしながら、それはそれは楽しそうに目を細める。  透き通った白い肌に卵のような輪郭、小顔でふさふさな睫毛、筋のとおった鼻、小さな鼻梁、薄いが荒れのない潤った唇と、一見美女に見えなくないが、彼はれっきとした男性だった。しかも、すらっとした華奢な体つきの割に筋肉がついており、自分よりも3㎝ほど高く177㎝もあるまおを難なく抱えることができた。  モデルのような美女、もしくは美青年が、一般男性をお姫様抱っこしている構図があまりにも衝撃的で、周りからの視線が2人に集まる。  まおは居たたまれなさに何度も降ろすように懇願するが、葛葉は一部の人間に対して悪戯好きになるため、改札を出て見知った車の前へ行くまでお姫様抱っこをされたままだった。
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